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白銀 桜

Author:白銀 桜
万華鏡、うつくしいかたちをみるもの。
映るものを、言葉に変えて。

日常、PSO2/PSUでのRP、創作など。

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おかえりとただいま
「おかえりなさーい!!」
 ドアを開けたら、波のように声が溢れだしてきた。子ども達の、満面の笑みが視界いっぱいに広がる。……気が付けば、笑顔になっていたらしい。迎えてくれた子ども達の顔が、更に明るくなった。
「おねーちゃん、荷物持つ! 持つよ!」
「おねーちゃん遊ぼー! 早くー!」
「あのねあのね、おねーちゃん、えっとねっ」
「ちょ、……ちょっと待って、荷物置かせ、あ、ちょっと、待っ……引っ張らないの、危ないから、ね?」
 数人の子に引っ張られ、背中に抱きつかれ、手にしていた買い出しの荷物を落としそうになる。あ、卵割れる……子ども達の勢いを止める間もなくて、少し諦めかけたその時、バランスを崩しかけた身体が浮いた。
「ほーら、お前ら! せめて荷物置いてからにしろー?」
 軽々とこちらを支える腕を見上げると、笑っている優しい赤い目と合った。
 

 
「おう、おかえり。茶、淹れたぞ。……寝付くの、速かったみたいだなぁ」
 事務所代わりの部屋に戻ると、湯気の上がる湯呑みと笑顔が迎えてくれた。手招きされて、部屋の隅にあるラグに足をくずして座る。湯呑みを受け取ると、少し冷えていた身体に熱が伝わった。
「ただいま、ね。さっきまではしゃいでたから、あっという間だったわねぇ」
「手間、かけてすまないな。夕飯も作らせちまったし……」
「作るのは苦じゃないものぉ、いいのよ? 卵尽くしになるんじゃないかって、流石にさっきは焦ったけどねぇ……」
「卵焼きにオムライスに、茶碗蒸しとかか?……それはそれで喜ばれそうだけどな」
 笑いながら返ってくる言葉に苦笑して、お茶を一口含む。じんわりと広がる熱は、まるで孤児院で子ども達から貰うあたたかさのようで、肩の力が抜けた。それに気付かれたのか、少し心配そうな目が向けられる。その目に、小さく笑って首を横に振った。
「……大丈夫よ?」
「そう言うのから潰れてくの、見てるからなぁ」
「お互い様じゃないの」
「ぅぐ……」
「……何だか、ね」
「ん?」
 言いかけて、手の中の湯呑みに目を向ける。少しの沈黙に何を思ったのか、すぐ隣に来た手がそっと、髪を撫でた。されるままに目を細めながら、言葉を探す。
「いつの間にか、ただいまもおかえりも、言う場所が出来たんだな、って」
「…………」
「ほら、私……失くしたり、無くなったりとか、あったしね」
 今はもう、おぼろげになってしまった両親の顔。お爺様とお婆様の、最期の笑顔。調子のいいことばかり言っていた男の顔。――一度は傍にあったのに、指の間からすり抜けるように失っていった場所。あの頃からそう長い時間が経ったわけじゃないのに、今の私のいる場所からは随分と遠いように思えた。
「おう、好きなだけ言って良いんだぞ?」
「……そういうものかしら」
 茶化してくれた言葉に、思わず笑ってしまう。合わせた目の優しさに少しだけ身体を預けかけたその時、鋭い音が割って入った。弾かれるようにお互いの身体が離れる。もどかしげに端末を確認している口から、低く舌打ちがこぼれた。
「あんのバb……今かよ!」
「……仕事?」
 立ち上がり、気持ち乱暴な手つきで手早く支度を始める背中を見つめる。こちらの声に滲んだ感情に気付いたのか、肩越しに笑ってみせた目はもう、戦いを見据えた鋭さを秘めていた。トレードマークでもある赤いマフラーを巻き直す背中に、何かが衝き動かされる。駆け寄るように抱きつくと、驚いた気配は背中からも伝わった。
「っ、……どうした?」
「別に、どうって言うんじゃ、ないけど……」
「ちゃんと帰ってくる、大丈夫だ」
「……あたしも、行くわ」
 普段なら言わない、言えない言葉が、唇から滑り落ちた。言った自分も言われた背中も、一瞬絶句する。振りほどかないようにか、ゆっくりと振り返った顔は、心配げにこちらを見ていた。
「……不安にさせたか?」
「そうじゃないの、……足手まといにはならないわ、背中を守ることなら出来るし、」
「お前さんがそう言い出すのは珍しいな……」
 苦笑して、大きな手が頭に乗せられる。俯きかけると、その手は髪を撫でて顔を上げさせた。
「大した仕事じゃないが、頼めるか?」
「……ありがと、社」
 ――上手く、笑えただろうか。よく判らないままの胸騒ぎを抑えながら、促されて孤児院を後にした。
 手続きを済ませたキャンプシップが飛び立って、小さく息をつく。緊急招集にも慣れてしまったせいか、支度にはそう時間がかかっていない。軽いストレッチをしていると、こちらへの視線に気が付いた。
「なぁに?」
「いや……こういう形でお前さんと仕事に出るのは滅多にないなと思ってな」
「そう、ね……」
「さっきまでの話が話だったからな……」
「何だか……変な感じ、してて……」
「……変な感じ?」
 胸騒ぎは今も止まらない。どう伝えればいいのか言葉に困るのを見て、優しい手がまた伸ばされた。――その時。
 突然、シップが揺れた。着陸のアナウンスはない、それどころか目的地までにはまだ距離があるはず、なのに……遅れて鳴り出した警報音が耳を打つ。がくんと、シップの高度が落ちるのが判った。
「……っ!」
「掴まれ!」
 咄嗟に放ったデバンドの波が消える前に、得物を引き抜いた腕の中に庇われる。衝撃がシップを襲ったのは、一呼吸後だった。
「……大丈夫か?」
 思わず瞑っていた目を開ける。たちこめる土埃を透かして、不穏な赤い光が目に入る。その前に、翳すように立てられたソードの青いフォトンが、盾のように広がっていた。素早くお互いに怪我がないか確認して、小さく息をつく。
「あたしは平気、……怪我はない?」
「おう、大丈夫だ、が……参った、“ここ”か」
「ここ、って……」
 腕の中から見上げた、空があるはずのそこには、……何処かで見たような市街地が、広がっていた。いつか一度だけ見たことのある、銀の髪の女の子が散った場所にそっくりで、呼吸がおかしくなる。けれどそれは、この場所に広がる異質なフォトンの所為だとすぐに気が付いた。
 身体からはフォトンが、静かに溢れていく。身体を守るように現れる雪の結晶のようなそれは、溢れる側から空気に溶けて消えてゆく。それを眺め、抱える腕だけに力がこもっていく。そして小さく低く、声は響いた。
「ダーカーの、巣だ」


 
 ところどころに落ちている通信用のメッセージパックからは、どう考えても芳しい内容とは思えない声が途切れ途切れに再生されていく。最初は足を止めてしまっていたけれど、ダーカーとの交戦中に再生されてしまうメッセージはどうしようもない。内心を黒く塗りつぶされるような気持になりながら、上がりかける息を整える。
「何人落ちたのかしらね、ここ……」
「メッセージを遺せてる奴らはいるが……ソレだけで済むとは思えん。実際、死に掛けてる場所だ」
「そうよ、ね……一人でこんなトコ落とされたら、って割と洒落にならないわぁ……」
 言いながら、背筋が寒くなるのを感じる。自分の程度は、自分が嫌になるほど知っている。今居る場所……途切れ途切れの通信でどうにか聞き取れた、最深部へ向かう道程の半ばですら、一人じゃ突破できるかどうか判ったもんじゃない。今無事で立っていられるのは、一身にダーカーの注意を引きつけながら先陣を切ってくれているもう一人が居るからこそだった。
「そうなったら、そうだな……キャンプシップ奪ってでも探しに来るさぁ」
 茶化した口調に、少しだけ笑う余裕が戻る。少し目を細めてこちらを見た唇から、小さくその先がこぼれた。
「ここは寒い。一人だと、余計にな。そんなトコに長居させたくは無い」
「えぇ……一緒でよかった、って……言うのもアレな状況だけどぉ……」
「とにかく進もう。こんなところで回収に間に合わないなんてなったら、それこそ笑い話にもならん」
「えぇ」
 荒れていた呼吸は、少しの会話の間に整っている。相変わらず溢れたままのフォトンを見ながら、シフタとデバンドを丁寧に重ねる。顔を見合わせ頷くと、また走り出した。
 ――ダーカーの巣窟、なんて誰が名付けたんだか。一歩足を進める毎、テクニックを放つための一挙手一投足に反応するかのように、ダーカーは湧いてくる。足元に広がる侵食液は、足捌きを邪魔するだけじゃなく、確実にこちらの体力も奪っていく。先を行く背中を必死に追いながら、駆け抜けようとした時。足元で、メッセージパックが開いた。
『この駆動音……戦闘機? 味方なの? いえ、違います! 罠です、皆逃……!』
「え」
「上にも、気を配らないとな。来るぞ、間違いなく」
 そう言われた瞬間に、目の前の侵食液が上から降り注いだ何かによって、一列に水柱を立てた。
「きゃ、」
「……そーら来た!」
 空には赤黒く何かが絡みついた戦闘機が見えた。機銃がこちらを向く。咄嗟にぬかるみの中を蹴立てるようにステップを踏み、炎を纏って空中へ身体を投げ出した。こちらを狙うために高度を下げていた機体へ、何とか届く……!
 ……何度も纏い直した炎が機体を焼き尽くす。落ちた機体を足掛かりに高台に降り立つと、同時に湧いたダーカーを全て斬り伏せた姿が駆け寄ってきた。
「大丈夫か?……空に手出しできないとこうも歯がゆいとはな……!」
「テクニック、何とか届くわね……えぇ、大丈夫よ」
「走ろう。走って、ポイントに着けば無事に帰れるはず、だから」
「……うん」
 言いながら、そっと目の前の背中の様子を窺う。……大きな怪我はない、レスタはちゃんと届いてる、補助テクニックもしっかり張り巡らせた……あとはとにかく、回収地点の最奥へ走るしか、ない。
 進む先を阻むように湧く、ダーカー。
 進む足を捕らえようとする、侵食液。
 確実に削り取られていく体力を感じながら、更に空からは戦闘機が襲いかかってくる。
 持ち堪え、斬り伏せ、蹴散らし、駆け抜け、――最奥へ続くポイントの前に、そのメッセージパックは遺されていた。
『……これを見てる人、いるのかな? 君は諦めないで……ぼくは、疲れたよ。』
 ノイズと共に、溜息のような暗い声が途切れる。数呼吸の沈黙は、低い、力のこもる声が破った。
「諦めるかよ。……諦めて、なるもんかよ。やり残した事、多すぎるんだっての……」
「……諦めたくは、ないわね」
 顔を見合わせて、少し笑う。――最奥、回収地点へ向かう足を止めた、一瞬だけ入った通信は、大きなノイズの後に断ち切られるように途絶える。嫌な予感をねじ伏せて、足を進めていく。
 そして、最奥の回収地点には、
「……っ、ヒューナル、それにありゃぁ」
「……っ!」
 ファルス・ヒューナルの黒い巨体と、鏡で映しとったような、見慣れた姿があった。
「クローン……あたし達の!?」
「……良い趣味してんな、クソッ……」
 視線が釘付けになる。こちらへ走ってくる姿は間違いなく、見知ったそれなのに、なのに。
「っ、く……!」
 こちらを見て笑う、目が。
「っくそ!!」
 笑みをかたどるその目が、虚のように、黒い。
「……っ!」
 震える手を、ウォンドを無理矢理振り抜く。放った炎が、よく知る姿を焼こうとする。アレは違うと頭で判っているはずなのに、視界を奪うその光景は、心まで砕こうとしていた。
 ……膝をつき、くずおれていく真っ黒な長身を見るに堪えず、振り返る。そこには、振り上げたソードを下ろせずに唇を噛みしめる姿と、……笑みをあり得ないほど深く刻んで、腕を差し伸べている“私”が、居た。
「……社!」
 炎を纏い、間に飛び込む。それに弾かれたようにソードを引くその顔に、小さく笑ってみせる。そして私は“私”へ、ウォンドを振り下ろした。その瞬間、笑みは溢れる憎悪にとって代わる。焼き尽くされながら私を睨む“私”の目は、何処までも堕ちるように昏かった。
 手の震えは止まらない。崩れ落ちる“私”を背に、ヒューナルに対峙し、――その姿が虚空に消えてからも、止まりそうになかった。
「……、自分で自分を討つ分には、まだ良かったんだが……すまん、偽物でもアレは斬れん……」
「やりづらかったでしょ……怪我は、ない?」
「俺は問題ない。ルルは?」
「あたしも大丈夫、ね」
「戻ろう。いつまでもここに居たんじゃ、息が詰まるだろ?」
「長居は、やっぱりね」
 震えたままの手を誤魔化しながら、回収に来たキャンプシップに向かった――けれど。乗り込んだ瞬間からの記憶は、ない。
 
 
 ……ゆらゆらと、優しい揺れが体を包んでいる。瞼が重くて、目が開きそうにない……でも、このあたたかさは全部委ねていいのだと、何処かで判っていて。だから、刻むように鳴る音の方へ、頬をすり寄せた。
「……起こしたか? や、まだ寝てる、か」
 低い声が、柔らかな笑みを含む。瞼を透かして、少しずつ光が強くなってくるのが判る。この光は、もう、朝……?
 鍵を開ける音。
 音を立てないよう、ゆっくりとドアが開いて、閉じる。
 小さく、けれど深い溜息が、ひとつ。
 そっと、頬へ近付く温もり。
「……おかえり」
 こぼすように囁かれた言葉に、瞼の重みが落ちる。
 腕の中、大切に抱えあげられて、温もりの中で目を覚ます。
 寄せられた頬に触れるように、小さく呟いた。
「……ただいま」



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2016.12.03(Sat) | 『名も知らず、咲き誇る花』 | cm(0) |

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