PSO2にてまったり活動中。 RPだとかその他いろいろ雑文書きとか。
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白銀 桜

Author:白銀 桜
万華鏡、うつくしいかたちをみるもの。
映るものを、言葉に変えて。

日常、PSO2/PSUでのRP、創作など。

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 今でも忘れられない背中がある。
 親が2人ともいなくなって、数日後だったと思う。
 誰もいなくなった親のベッドルームで、ぽつんと座り込んで、声もなく泣いている背中だった。
 見てはいけないんだ、と思った。
 足音を消して、そっとドアを離れようとしたとき、持っていたトレイを壁にぶつけて。
 背中が1度、大きく跳ねた。
「……イブキ」
 振り返ったその人は、少しだけ赤い瞳で、優しく笑っていた。
 差し出した、少しぬるくなったホットミルクを飲みながら、その人の手はずっと、髪を撫でてくれていた。
 ――自分がガキなのが、嫌だった。
 出来ないこと全ての理由が、自分がガキだからとか、どんな悪い冗談かと思っていた。
 早く、何より早く、大人になりたかった。
 1人で何でも出来て。
 1人で何でも叶えて。
 1人で誰でも守れて。
 ――そんな大人に、なりたくて仕方なかった。



「現実ってさぁ」
「んだよ」
「……見なくてもいいモンまで見えるよなー……」
 磨いていたカウンターに頬杖をつくと、向かいに座ったオッサンが眉を上げていた。
「なぁに粋がってんだよ、ガキが」
「っせーな! そのガキの作った酒で飲んだくれてんじゃねーよ、オッサン!」
 水割りのグラスを取り上げてやろうとしたら、オッサンは歯を剥いて威嚇してきやがった。
「オラ、もう1杯作れ、イブキ」
「んとにこのダメ大人……!」
 文句を言いながらも、手は勝手にオッサンの好みで水割りを作っているのが悔しい。これ、職業病なんだろーか。
「イブキ君、甘やかしちゃダメですよ?」
「ママ……なら何で毎回オッサンに営業かけんだよ」
「1人ぐらい常連が居なくちゃ様にならないじゃないですか。これでもアークスの1人ですし、給料明細は握ってますから、取りはぐれることもないですし」
「オイ、ミシェルゥ!? オメーいつの間に!?」
「今まで気付いてなかったんですか? しまった、もう少し盛るんでしたねぇ……僕としたことが、つい仏心を」
「ねーだろ! ねーよなそれェ!?」
「…………」
 このママさんも大概だと思う。
 今日も綺麗に着物を着こなして、涼しげに笑うママさんは、銃のレクチャーを1からオレにしてくれた人だったりもする。
 というか、オレがアークスに入ることを決めた時に、大体のセキュリティは見当が付くとか何とか言って、オレよりも結果が優秀だった姉ちゃんのデータをオレのものに改竄させた人だ。正直、この人が保護者で良かったと思う半面で、この人ほど敵にしちゃなんねー人も居ないと思う。
「こんな大人になっちゃダメですよ、イブキ君?」
「……それ、ママさんも入ってんの?」
「当たり前じゃないですか。――それとも僕の跡を継いで、君がここに立ちますか? まぁ、イブキ君の顔立ちなら男でも女装でも行けそうですけど」
「マジ勘弁……」
 呻くと、ママさんは綺麗に微笑んだ。それを見ながらオッサンは、水割りの氷を噛み砕きながら、にぃっと人の悪い笑みを浮かべる。
「オメーもアークスなっちまったからな、十分こっち側だぜェ? 落ちてくんなら早く来いよオラ」
「ぜってーヤだね!」
「んだとこのガキ!」
「キースさん、良いですか?」
 不意に空気が変わる。――主に、ママさんの周りが。
 オレを見るママさんの目は、ひどく冷たくなっていた。
「“アスマ”君、ちょっと下へ」
「――ん」
 首筋が、少し粟立った。



「構えなさい」
 言うなり投げつけられたのは、ライフルだった。取り落とさないのが精一杯で、それを見たママさん――ミシュさんは、小さく笑った。
「それは一般的なアークスの標準装備です。まずは基本から行きましょう」
「基本……」
「腕を下げない、銃口が下向いてます、背中は丸いし、腰引けてます――何ですか、みっともない」
「オレ初心者だよ!?」
「なら、自分の考える格好の良い構え方でもしてください。矯正しますから」
 ただ直すんじゃないあたりが、ミシュさん流スパルタの所以だよな、これ……。
 銀猫の1階下には、大きな姿見とコンクリで打ちっぱなしにされたままの殺風景な空間があった。壁にはしっかりと防音処理がされているらしい。これひょっとして、防弾処理もかかってるのか……?
 何というか、部屋というよりも地下室としか呼びようがない場所が、そこにあった。
 その姿見の前に立たされて、自分の構えを見せられて、――逃げたくなった。
「……逃げちゃダメですよ、まずは形からで構いません。アークスでしたら、基本対人はないところですから、そういう方面は省いておきますよ?」
「……え?」
「ほら、気が散ったら更に情けない姿ですよ。写真撮って春ちゃんとキースさんに送っちゃいましたからね」
「いきなり事後かよ!?」
 油断も隙も、なんてレベルじゃねぇ……。早くもメールの着信が鳴り出した端末を無視して、姿見の前で構えを作る。
 下がる銃口を扇子の先で上げられたり。
 丸くなる背中を猫つまみの要領で引き上げられたり。
 引ける腰をつねられたり。
 ――気が付けば、1時間が過ぎていた。
「どうにかブレなくなってきましたね。形は覚えましたか?」
「ん、多分」
「じゃあ次です。こっちに持ち替えて、今の姿勢を30分キープできたら次に進みます」
 ぽん、と投げられた銃を受け取ると、今までの倍以上の重さに手から落としそうになった。
「あ、それ実弾銃ですから、セーフティかかってますけど落とさない方が」
「もっと早く言ってくれねー!?」
「僕に教わろうとした時点でいろいろ間違ってますからね、君は。――僕のスタイルは対人も含めた自己流です。悪い癖が付きますよ、良いんですか?」
 笑みを含みながらも、ミシュさんの声は氷のようだった。紫紺の瞳は、ただじっとオレを見つめていた。
 多分、これが修羅場も何もかも潜り抜けて、生き抜いて、選び抜いてきた男の目なんだろう。
 ――オレ、こんな風になれるのかな。
「……オレ、」
「はい」
「――親父死んだ後、姉ちゃん泣いてたんだ」
「……春ちゃんらしいですね、誰も居ない所でなんて」
 ミシュさんは小さく苦笑する。――どうして、大人は判るんだろう。足りない言葉の後ろ側まで、何で察してくれるんだろう。
 それは、ガキのオレじゃ出来ない。少なくとも今のオレには。
 時間が解決すると言われたら、返す言葉はない。
 判ってんだ、大人になるのは。時間さえかければ、名実ともに大人になれる。
 だけど、違うんだ。
「オレ、早くちゃんとしたいんだ」
「……急がないで良いんですよ?」
「今が良いんだ。今、なりたいんだ」
「……桜さんに恨まれそうですね」
 言うと、ミシュさんは俺の手からライフルを取る。そして、無造作に見えるくらい自然に構えて……撃った。
「……しまった、着物に硝煙の臭いが……」
 地下室にはまだ、残響がある。オレは銃口の先にある的が綺麗に撃ち抜かれているのを眺めていた。
「――イブキ君」
「……ん」
「毎日、アークスに向かう前にここで1時間、出来ますね?」
「判った」
「僕には君と春ちゃんを守る義務があります。君をアークスに入れる矛盾をしながら、ですが」
「――――」
「君は必ず、生きて戻りなさい。どんな無様を晒そうが構いません。そのために僕は、技術を教え込みますから。――無様が嫌なら、上達なさい。君が欲して止まない姿は、君の手で理想から奪い取りなさい。男なら、判りますね?」
「――あぁ」
 ミシュさんが改めて、ライフルを手渡してくれる。オレはそれを受け取って、構えた。
 重さに、腕の筋肉が悲鳴を上げ始める。
 慣れない体勢に、身体の軸がブレそうになる。
 歯を食いしばるオレの顔は、姿見の中で、出来損なった道化みたいだ。
 けれど、それを見つめているミシュさんの顔は、姿見越しにも微笑んでくれていた。



「――おぅ、終わったのかよ」
「えぇ、随分慣れて来たみたいですね。筋肉の使い方も普段と違うことが判ってきたでしょうし。今、腰だめでランチャー構えて30分、頑張ってもらいましたよ」
「まぁたオメー、あのクソ重いの下げさせたのかぁ?」
「……そろそろ根、上げると思ったんですけどねぇ……」
「っは、アテが外れたかぁ?」
「――桜さんには恨まれますよね、僕」
「良いんじゃねぇか? どーせアイツなら俺ら全員並べてぶつけてくんだろ、恨み言ならよ」
「それもそうですね」
「……オメー、戻らねェのか」
「僕が戻ったら、帰る場所が減っちゃうじゃないですか。……ダメですよ、僕はきっと、ラッセルさんの代わりに超えていく存在にならなくちゃいけないんですから」
「……オメー」
「……それ以上言わないで下さい、柄じゃないのは判ってるんですから」
「っは、ははははははッ!――おいミシュ、オメーまで俺と同じコトしようってのかよ!」
「っ……黙って飲んで下さいよ、もう」


end

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