PSO2にてまったり活動中。 RPだとかその他いろいろ雑文書きとか。
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白銀 桜

Author:白銀 桜
万華鏡、うつくしいかたちをみるもの。
映るものを、言葉に変えて。

日常、PSO2/PSUでのRP、創作など。

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 ――簡易検査と精査を数回。それだけであたしはアークスとして登録された。
 2年前、おぼつかない足で歩き回ったシップが、今度はあたしの居場所になるなんて……割と悪夢も、安っぽくなってきたのかしら。
 今思い出しても、軋むような、穿ち抜くような痛みが忘れられない。
 ねぐらだと聞かされていた部屋には、生活を思わせるものは何一つ残っていなかった。
 部屋の中にぽつんと残されていたのは、ボールドのリボンを左の柄に結んだ朧だけだった。
 同室だったという男性からそれを受け取り、どうやって市街地まで戻ったのかは、覚えていない。ただ1つのことだけが、頭から離れなかった。
 2年近く、時間も生活もお互いも共有したのに、――本名すら、知らなかった。
 何処の誰だか判らない男と、何処の誰だか判らない女。
 何となく一緒にいて。
 何となく身体を重ねて。
 何となく、このままずっと居られると思っていた。
 ――勝手な、思い込みだった。
 そしてあたしは今、アークスシップに居る。
 毎夜眠れずに、バーで理由をつけてはサボり、上から睨まれない程度に時折任務をこなす。
 そうしていれば、そのうち市街地に戻れると思っていた。
 ある時、凍土への渡航許可が下りた。
 足を踏み入れるのには、躊躇いがあった。
 けれど、そんなちっぽけな感傷を笑い飛ばすように、白く美しい世界は広がっていた。
 ……あの瞬間、までは。



「ちょっと借りるわね、社」
「ん?」
 返事も待たずに凭れかかった広い背中から、ゆっくりと温もりが伝わってくる。一瞬だけ背中合わせのこちらに目を向けた社は、軽く頷くとそのまままた会話に戻っていく。
 週末のバーは、夜が更けるに連れて賑わいを増していく。そのざわめきに撒かれて、背中からの温もりに揺られて、意識は徐々に落ちていこうとする。
 温もりの方から、微かに笑う気配が伝わった、気がした。
 ――意識は深みへと沈んでいく。そして、着いた先は……見慣れた店の中、だった。
 警報が鳴り響いている。逃げなくちゃ、幸いシェルターまではそう遠くない。
 避難用にと渡されていた簡易のトランサーに、朧を放り込む。貴重品と金庫の鍵、必要なものはこのくらいだ。
 「これに慣れるってのもやーねぇ……」
 呟きながら、店のエントランスに向かう。安物だけれど設置してもらったレーザーフェンスは、今のところちゃんと仕事をしてくれている。
 ドアの大きなステンドグラスから射し込む光に目を細めながら、スイッチに手を伸ばしたときだった。
 ガラス越しに、黒いモノが光を遮る。空を滑るように動いていたそれが、ぴたりと動きを止めたのは、ガラス越しに目が合ったと思った瞬間、だった。
「……ぅ、」
 ……遠くで自分の声がする。その声に重なるように、低く声が聞こえた。
「……俺が、居る」
 けれど、大きなステンドグラスには、大きな罅が広がった。
 光は完全に遮られ、黒いモノは狂ったようにガラスへ体当たりを始めていた。
 罅が少しずつ細かくなってくる。
 ガラスの欠片が1つ、足元に転がった。
 視線を向けたその時、ステンドグラスは内側に向けて弾け飛ぶように割れた。ガラスの破片が、降り注いでくる。咄嗟に顔を庇いながら倒れるすぐ上を、黒いモノが啼きながら内側へと飛び込んでくる。
 店の中は一瞬で――本当に瞬く間に、瓦礫の山にされていく。
 毎日磨いていたカウンターも。
 少しずつ揃えていった食器も。
 気に入っていたテーブルも椅子も。
 大きな、ステンドグラスも。
 ――積み重ねた、日々も。
 ようやく悲鳴を上げかけたその時、天井が、大きく崩れてくるのが見えた。
 瓦礫が、降ってくる。
 ――ここで、終わるんだ。そう考えた時、少しだけ……ほっとするあたしが居たのを、あたしは知っている……けれど。
「……、……っ!」
「……っぉ」
 飛び起きたあたしに、社が驚いたように振り返る。背中の温もりは、いつの間にか嫌な汗に変わってしまっていた。
「……あ、ごめんごめん……」
「……大丈夫、か?」
 社の目が、心配そうにあたしを見ている。それに気付いたのか、キースと小夜ちゃんまでこっちを見ていた。
「どうしたんだ、ルル」
「ん……?」
 今はその目が、ただ痛い。――きっと見られないような、酷い顔をしているに違いないから。
「ん、ちょっとうとうとしてたわね……」
「大丈夫……ですか?」
 キースの隣に座っていた小夜ちゃんが立ち上がって、胸の前で指を組む。心配そうにこちらを見つめる前で、あたしは無理矢理笑ってみせる。
「うふふ、大丈夫よぉ? 旦那ぁ、ごめんね、お水貰えるかしらぁ……」
「ん、おう」
 バーカウンターに立つモロスの旦那に声をかけると、旦那は軽く頷いてグラスに水を用意してくれる。それを見た小夜ちゃんは、カウンターに駆け寄った。
「あ、届けますっ」
「悪い、頼む」
「もう、小夜ちゃん……あんまり気にしないのよぉ?」
「どうぞっ」
 苦笑するあたしに、小夜ちゃんはグラスを差し出してくれる。軽く首を傾げると、さらさらの黒髪が肩からするりと零れて、まるでお人形さんのようで。グラスを受け取りながら、そっと頭を撫でてあげると、それが気に食わないのか、キースが噛みつきそうな口調で怒鳴り始める。
「オイオイ、ルルゥ、俺のサヤをパクらねェで貰えるか? ほら、サヤ、そんな怖い“魔女”みてェな女と話してねェで俺の所に来い」
「まじょ……もぅ、はい……」
「……そういや、夢見が悪いって前に言ってたよな」
 ゆっくりとグラスを傾けるあたしに、モロスの旦那が言う。小さく肩を竦めると、モロスの旦那は軽く腕組みして悩み出した。
「夢、かぁ……やっぱりぬいぐるみを……」
「……あたしがぬいぐるみとか、柄じゃないわよぉ?」
「そうか? ラッピーとは言わんが、何ならガルフとかそういうのでも……」
 器用な性質は、料理以外にも発揮されてるらしいわね……苦笑しながらカウンターの中へ入り、グラスを洗おうとした時になって気が付いた。
 小さく震える指先。グラスを持つのがやっとだと、意識した瞬間にグラスは手から滑り落ちた。
「……あ、」
 小さく鋭い破砕音。カウンターの中で、モロスの旦那が振り返る。
「怪我は?」
「ん、平気。あーあ、グラス1個ダメに……」
「まだ身体が起き切ってないんだろ。もう少し休んでな」
「あ、ごめん、旦那……折角の黒服になのにこんなことさせちゃいけないわねぇ」
 シンクの中を見て、旦那が手早くグラスの破片を片付け始める。自然と下がる形になってしまったあたしに、キースが声を投げた。
「オイオイルル、上がった方が良いんじゃねェのか」
「ルルさん、何か……」
「ん、え?」
「……休んだ、方が良い」
 皆の声が、なぜか遠い……反応速度がひどく鈍っているのが判る。カウンターの外の小夜ちゃんや社の声に、返事を咄嗟に返すことが出来ないでいる。こんなことじゃいけないと思う頭とは反対に、手の震えは、まだ止まっていない……無意識に手を握ったり開いたりを繰り返すあたしに、旦那が言う。
「……ん、ルルーディア、手」
「……あ、」
「…………」
 旦那の声に、社の目があたしの指先に向く。そして、震えを見てしまったのか、その視線が少し尖るのも判る。水割りを傾けながら、キースは眉を立てて笑った。
「オイオイ、ルル、なんかオマエ、俺みてェだな」
「……馬鹿言わないでよ」
 声が低く沈む。いつもの声とはかけ離れてしまったことに気付きながらも、止めることは出来なかった。キースもそれに気付いたのか、目は笑わないまま言葉を続けた。
「バカはいってねェよ? ただ、今のお前は、バカになりそうだぜ? 寝とけよボケ」
「……うっさいわよ、酔っ払い」
「なんてなァ! なんてなァ! はははははははッ!」
 ちっとも楽しそうじゃない笑い声を上げるキースから、顔を背ける。
 この男は――どうしても、2年前のあたしと被る。酒に溺れて、酔えなくなって、止まらない震えに泣きながら笑っていた、あの頃に。無理矢理に矯正して、禁断症状を起こすようなことはほとんど無くなったのに……この男を見ていると、あの頃の自分を責めるのと同じ気持ちが起きてしまうのが、嫌だ。
 うつむいたあたしを見て、グラスを片付け終わったモロスの旦那がカウンター越しに声をかけた。
「ヤシロー」
「……なんだ?」
「ルルーディア、送ってやってくれ」
「あいよ。ーーほれ、手ェ」
 社は言うと、カウンターを出ようとするあたしに手を差し出す。あたしは小さく笑って――笑えていたと思う、けれど、首を横に振る。
「社、ごめん、大丈夫よぉ?」
「……手」
 社の声が、低く落ちた。視線は、あたしの指先に止まったままだ。鋭いその目のまま、社は言葉を続ける。
「指先見てみろ……震えてる奴が、大丈夫とか言うな」
「……あんまり見られたくないわねぇ」
「……なら、隠しゃいい」
「……っ、」
 言うなり、大きな手があたしの手を取った。反射的に引っ込めそうになるのを、何とか堪える。そのまま、社に手を引かれてバーを出た。
「……ごめんねぇ?」
「いや、いい。俺もそろそろ寝ておかないとと思ってた頃だ」
「……そうなの?」
「ああ。だから、気にするな」
 言って、社の手が軽く頭に乗せられ――一瞬記憶を掠めた影を、目をきつく閉じて振り払う。不自然を悟られないように、あたしは小さく笑ってみせる。部屋への転送スペースまで来ると、改めてあたしは言った。
「……ありがとね、社。背中も借りちゃったし、ね」
「ん。……暖かかったぞ? 俺も寝そうだった」
 笑って言う社に、少しほっとする。――あたしの化けの皮がまだ剥がれていないことに、安堵する。やっといつものように、笑うことが出来たかもしれない。社の目が少し和らいだのに、小さく息をついた。
「そうね、またお酒つき合って頂戴?」
「喜んで」
 ……取られた手は、指は、もう震えていないだろうか。さっきは背中に感じていた温もりを、今は指先に感じながら、あたしは社を見上げる。社はいつものように、穏やかな目でこちらの様子を量っているようだった。
「ここまでで、本当に大丈夫か?」
「……ん、多分?」
「多分、って……お前なぁ……」
「心配?」
 社の様子に、笑みが自然にこぼれる。あぁ、こんな風に心配がいつも透けて見える癖は変わらな、
「ぇえい、心を読むな……」
 ……違う。
「……顔に出てるのよぉ?」
 違う、社は……社は、社。記憶と重ねるなんて――なんてコト、してるの、あたし。
 悟られないように慌てて、指先を確認する。震えは、止まっていた。
「ありがとねぇ、もう大丈夫よ?……良い夜をね、社?」
「ん、あぁ」
 取られていた手を、そっと振りほどく。
 温もりが離れる瞬間に、頭を何かが掠めていくけれど、意識は笑顔を作ることに向ける。
「お互いに、な」
 軽く手を振って、あたしは一人、部屋に向かう。誰もいない部屋を見渡して、そして。
 ……ゆっくりと、膝をついた。
 指先に残る温もりを、記憶が重ねようと足掻くのを、必死で止める。
 けれど震えが身体中に広がるのは、止められなかった。
「いつまで……こうしてる、つもりなの……」
 震える身体を自分で持て余す。
 呟く声は、取り繕う余裕もなかった。



「……オマエ、彼氏アークスだろう」
 手酌で飲み続けるキースが、唐突にそう言った。一瞬言葉に詰まるあたしの顔を横目でちらりと見ると、キースは言葉を続けた。
「凍土で判ったさ」
「……アンタホント、嫌な時に勘働きいいわね……」
 にやりと笑うキースの前で、あたしは俯いてグラスを回した。小さく鳴る氷の音に、この間行った任務を思い出す。
 ――初めて自分の目で見たダイヤモンドダスト。きらきらと降り注ぐ光に、いつかの端末の画面が重なっていく。
寒さとは違う何かに震えるあたしの前で、その景色は何事もなかったように消えていった。
 夢じゃ、なかった。
 現実に、起こり得るものだった。
 夢のように広がる氷の世界は、実在している。
 2年間、見続ける悪夢は――現実のものに、近付いた。
「で、生きてんのか、死んでんのか」
「……判んないのよ」
「そうか」
「2年前、かな。……ダイヤモンドダスト、任務中に見たって」
「ダイヤモンドダスト? あぁ、昨日のアレか」
「そ。本当だったら禁止されてるはずの通信、ライブで送ってきて……それから先は知らない」
 言葉に、声にすることで。現実が近付くんだと思ってた。
 ――そんなはず、ないのに。
 起きた事実は、変えようがないのに。
「ヤンチャなヤツだなぁ、気持ちはわからねェでもねーが。現場降りてるのは探してるからか」
「……諦めちゃえば良いのにねぇ」
「女は諦めが早ェって聞くが、オメーは別みてェだな」
「借り、全然返せてないから腹立つのよ……」
 ……あたしの持っていた夢も、店も、あたし自身でさえも、ここに居ない人のおかげで、一度は叶えられた。
 その一度で、充分だった。
 キースはあたしの顔をちらりと見ると、目を逸らしながら呟く。
「この仕事でな、死んだつって、生きてる奴は山ほどいる。ちと容姿は変わってるかもしれねェが、コロッと出会えるかもな」
「……慰めてくれてんのぉ?」
「んな訳あるか、酒の礼だよ。金はねーからよ!」
「……っは、良いわよこのくらい」
 目を逸らしたのはこの男なりの礼儀だと受け取って、あたしは笑う。
 その時、端末が小さく鳴った。
「メール……? ごめん、通信だわぁ」
 送り主を確認しながら画面を開いた途端、真っ白な光が端末の中にあった。
 それが何か、を認識して、――息が、詰まる。
 一瞬にして震えだした手から、端末が滑り落ちた。
 周囲の音が遠い。
 端末を拾い上げようとする指の震えが、止まらない。
 持っていたグラスの中身を一気に空けるけれど、味覚まで鈍くなっている。
 酔いは消えて、震えは増すばかりだ。
「おいおい、ルルゥ?――オメー、そろそろ納め時だって判ってんじゃねーか、はははははははっ!」
「……判ってるわよ」
 痛みが走るほど、手を握りしめる。震える指でどうにか端末を拾い上げると、トランサーに叩き込む。
 そして、取り出した朧だけを背負った。
「おい?」
「……ちょっと行ってくるわぁ、忘れ物があるのよぉ」
 ……あたし以外には所有登録されなかった『守り刀』。何故かは問わない、問えない。
 もう、判っているから。
「――ケリ、つけてくるわ」
 呟いてあたしは、バーを出た。
 『朧夜』と『花霞』だけを、連れて。

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