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白銀 桜

Author:白銀 桜
万華鏡、うつくしいかたちをみるもの。
映るものを、言葉に変えて。

日常、PSO2/PSUでのRP、創作など。

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【PSU/RP】魔女の住み家【その、記憶。】
「……ここだったんだ」
 記憶に任せて足を踏み入れた小屋は、今の“私”が見ればとても小屋とは思えないものだった。
 継ぎ目ひとつない、真っ白な石の壁。不自然なほどに大きく重々しく見えるのに、軋みを上げることもなく開く、漆黒の鉄の扉。壁には窓はなく、唯一見えるのは、屋根裏と思しき所にある天窓がひとつだけ。
 その天窓と、開いた扉から差し込む光が、埃まみれの部屋を浮かび上がらせていた。
「……誰も、来てないんだ」
 呟きながら、目深にかぶっていたマントのフードを背中に落とす。無造作に束ねただけの亜麻色の髪が肩で跳ねる。
 近くにある机に近付くと、埃を透かして彫りこまれた模様が見える。指でそれをなぞると、真っ白な机の上に、幼い文字が並んだ。

「M-i-l-a-d-y-a……」
 ……如何なる時も貴婦人のようにあれ、と。今は亡き優しい人から授けられた名前が、そこにあった。
 幼い頃の誇りは、今はもう誰も声に出してはくれない。
 優しかったあの声たちは、もう届かぬところへ逝ってしまった。
 “私”の名前は、残ってはいけない。
 この身と同じく、誰の記憶にも残らず、忘れ去られていかなければ。
 何故なら、“私”は、
「……ここにしよう」
 薄暗がりに慣れてきた目で部屋を見回して、頷く。埃まみれだけれど、片付ければ人一人の住まいとしては申し分がない。幼い頃の半分を過ごした場所だけに、そう決めてしまえば迷いはなかった。
 扉に指で模様を描く。その指を1度鳴らして小屋の外に出ると、目の前で白と黒の小屋は深い緑色に霞んでいった。
「これで良し、と……それじゃさっさと片付けますか」
 小屋の前に待たせていた馬にまたがると、走り出す。
 ??少しだけ、気持ちが晴れていた。


 ……ゆらゆらと。
 あたたかな海に浮かんでいる、夢だった。
 海に包まれ、くぐもった声が聞こえる。
「……ごめんなさい」
 囁かれるように近くに聞こえる声は、泣いていた。鈴を震わせるように、嗚咽が続く。胸を裂くようにさえ思えるその声に、包み込むようなあたたかな声が言った。
「いやですよ、謝ったり頭下げたりなんて。そんなことなさらないで下さいましな、お后様。??そりゃあ驚きはしましたよ、この子がそんな大きなことを出来るなんてねぇ。……でも、お生まれになられた王子様のお役に立てるんなら、この子はきっと頑張れちゃうんじゃないかなって思うんですよ。まぁこれは、母親の贔屓目かもしれませんけどね」
 ……笑い声にほっとして身じろぎすると、その声は歌うような調子で続けた。
「ほら、この子もそうだって……動いてますよ、お后様。触れてみて下さいな」
「…………」
「この子はね、きっとそういうことを全部何とかして乗り越えてしまえると思うんですよ。苦労しても、痛い目見ても、きっと前に進むと思うんですよ。……あたしの子なんですから、間違えっこありません」
 海の外から、2つのぬくもりを感じる。??このぬくもりが守ってくれるのだと、何故か感じた。
「……名を、」
「え?」
「わたくしから、この子に名を差し上げても?」
「そんな、勿体ない!」
「わたくしの持てる、唯一の祝福なのです……おばば、この子は女の子なんですね?」
 引きずるような物音の後、海の外のぬくもりは3つに増える。そして、低いしわがれた声は言った。
「……あぁ、そうだ。強い娘だ。強くて、どうしようもなく優しい娘だよ」
「ならば……ミレディア、と。いつでも貴婦人のように、気高く凛と居られるように。おばば、いかがです?」
「よかろうて。……けれど、婆からも名をやろう。弱さを匿うための名だ。大きくなった暁にこの子にだけ告げて、秘しておけ」
 そうして、2つのぬくもりが離れる。残ったぬくもりは、何度も何度も海の外から慈しむように抱きしめてくれた。
「ミレディア、本当に素敵な良い名前だねぇ……負けたりするんじゃないよ、あんたの先を決めちまうような勝手な親かもしれないけど……あんたはあたしの娘だ、誇りだよ。??早く会いたいねぇ」
 ……そうだね、母さん。


「…………」
 まどろみから覚めると、外はもう暗くなっていた。天窓から射す月の光の他は、闇だ。
「……イフ、来て?」
 軽く指を鳴らすと、目の前の空間に炎が生まれた。炎は見る間に人の形に変わる。やわらかな花のような光と熱に、何処か安堵を覚えていた。
『うわぁ、懐かしいなぁ! ここにしたんだぁ』
「ここなら滅多なことじゃ見つからないだろうしね」
『あとで周り見てくるよ、もし誰かいたらここの守りも頼めるしね』
「ん、お願いね」
『……疲れちゃった?』
 話しながらソファーに座ると、炎の少年は心配そうに顔を覗き込んでくる。……炎の精霊・イフリート。物心ついた頃から共にいる、友人のような存在だ。
「大丈夫よ。ようやく人目を気にしないでいられそうな場所、見つけられたしね」
『懐かしいよね。最初にディアがボクを喚んでくれたところだ』
「そうだったわね。……イフは全然変わらないわね」
『ボクは精霊だもん、変わらないよ? ディアもずっと、あの時から変わらないよ』
「それって成長してないってこと?」
 苦笑すると、イフリートはにっこりと笑顔で答えた。
『ディアの魂は、ちっちゃい頃から本当にキラキラしてたんだよ。あの時から今まで、全然変わってないなぁ』
 ??精霊特有の邪気のない笑顔を向けられて、苦笑はやっと笑顔に変わった。……ようやく、まともに笑うことができた。
 その時、扉を弱々しく叩く音が部屋に響いた。表情が一気に硬化するのを感じる。炎の少年は一気に纏う炎の色を青白く変えた。
『……ディア』
 イフリートは鋭い眸を扉に向ける。ゆっくりとソファーから立ちあがろうとすると、それを制して扉の前に立った。
『……ボクが、守るよ』
「……ん」
「だれ、か……だれか、いるのぉ……?」
 臨戦態勢に入りかけた空気を砕いたのは、泣きじゃくる子供の声だった。合間に嗚咽を挿みながら、扉を叩く音は少しだけ力を増す。
「あけ、て……あけて、ください……っ、こわい、よぉ……おうち、わからないよぉ……」
『ディア……どうしよう?』
「……放っておけるわけ、ないでしょ?」
 イフリートは頷き、身体を縮めて暖炉の中に座りこむ。炎の中にその姿は溶け込んでいく。それに従って部屋は赤々と炎に照らされ、少しは人間味を増したようだった。
 ……何処かで、甘いと嘲笑う声がしたけれど。首を振ってそれを振り払う。マントを羽織りながら立ち上がると、扉に描いた模様を手で消した。
「……ふぇ、」
 軋みひとつあげず、鉄の扉は開く。目深にかぶったフードから見えたのは、泣き腫らした瑠璃色の眸の女の子だった。手足は擦り傷だらけで、泥がこびりついている。手にした小さなかごには、わずかな木いちごが見える。
「……木いちごを摘みに来たのね?」
「うん……」
「随分と奥まで来てしまったのね。ここは魔女の住み処よ?……それでも入る?」
「…………」
 おずおずと、瑠璃色の眸がこちらを見上げる。そして、大きく頭は縦に振られた。
「魔女さま……悪い人じゃないよ、平気」
 人の姿に落ち着いたのか、女の子はそう言って笑う。小さくフードの陰で溜息をつくと、暖炉に向かって指を鳴らす。すると、姿を消したイフリートが小さな鍋をひょい、と暖炉にかけて笑いを堪えているのが見えた。
「……ほんとに魔女さまだぁ……」
 女の子の口がぽかんと開いてしまっているのに、思わず吹き出してしまう。扉に模様を描きなおして指を鳴らすと、小屋の周りの緑が密度を増していく。それに少し安堵しながら、口を開く。
「入りなさい。暗い森じゃ、魔女だって迷子になるわ。何か温かいものを食べて、お風呂で綺麗にしてから休みなさい。朝になったら、森の入口まで送ってあげるわ」
「……ありがとうございます、魔女さま!」
 ……深く、考えるべきだったのかもしれない。
 逃げるように隠れ家を見つけてそこに移ったというのに、ひと時の後に迷い子に見つかってしまったことの意味を。
 けれど、この時の“私”は、ようやく人間らしさを取り戻せそうなことに安堵してしまっていた。
 ??逃げようがないほどに、“私”は、
「“さま”はやめてよね、そんなんじゃないわよ?」
 人であることを渇望する、魔女だったのに。

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2010.11.17(Wed) | 『その、記憶。』 | cm(1) |

この記事へのコメント
36.
コソコソ
|ω-)
あすか | 2011.04.06 23:59 | edit
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