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白銀 桜

Author:白銀 桜
万華鏡、うつくしいかたちをみるもの。
映るものを、言葉に変えて。

日常、PSO2/PSUでのRP、創作など。

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【PSO2/RP】氷の花、瞬く。【20170918/Re-play+】
 言葉にならない声が、目の前で弾ける。その声にも動じる素振りさえ見せず、容赦のない力が私の髪を掴んで、後ろへ引く。引きずられながら見た、こちらを振り返った紅い目は、今まで見たことがないほどの怒りに満ちていた。
「触れんじゃねぇ……触れんじゃねぇ、触れんじゃねぇ」
 一瞬でも会話に気を取られてしまった自分の迂闊さに唇を噛む。……私が狙われていて、そもそも会話自体が気を逸らすためのモノだったら、こんなの完全に相手の完全に相手の思うつぼで。相手がいくら神出鬼没のような真似を出来るか、ら……そこまで思って、今の状況の違和感に気付く。
「触れんじゃ、ねぇ!!」
 フォトンを込めた拳が、青白い炎のように見える。普段からは想像の出来ないその色は、灼くほどの怒りが社を焦がしているのだと、思い知る。私を“掴んだまま”の腕の主は、力任せに振り下ろされた社の腕を“すり抜け”、更にその半身をも“すり抜け”た。
「……ふふ、忘れていますのね?」
 腕の主……リザ様を真似たらしい“それ”は、私の髪を掴んだままそう言って笑う。自然、引きずられる形になった私の口からは、抑えきれなかった声がこぼれる。
「い、たっ……!」
 髪を掴んだままの力に変わりはない、でも社のコトは“すり抜け”た。……どうして?


「こんばんはー、ですよっ! おぉ、何やら皆様お揃いでー!」
 下駄の音を今日も響かせながら、巫女装束の少女・玻璃がバーへ飛び込んできた。口々に挨拶を交わす中、潮緒が軽く首を傾げる。
「そういえば、先日は大丈夫でしたか? 道に迷われたとか……」
「そのことなんですけどねー……いや、玻璃あの時真っ先に飛び出したじゃないですかー」
 わざわざしゃがみこみ、床に『の』の字を書きつつ、玻璃は周囲を見回す。その様子に笑みがこぼれたらしい黒髪の長身の男性が声をかけた。
「何だ、また猫について行って迷子か?」
「猫がナビしてくれなかったんですー!」
「猫がナビしてくれるの!?」
「猫ナビ……」
 玻璃の言葉にエンケドラスとリザが口々に応える。本気に取られそうなことに気付いたのか、真顔になった玻璃が肩と首周りに乗る猫を撫でながら顔の前で手を横に振った。
「いやすみません、そんな高性能な猫じゃ、あいたたたたたたた、噛まないでください、コト、タマ!!」
「はっはっは、怒ってる怒ってる」
「笑いましたね社おにーさん!?」
 猫2匹に齧られながら、玻璃は抗議の声を上げる。社、と呼ばれた男性は、笑いを堪えきれないのか横を向いて肩を震わせている。玻璃は何とか猫を引き離すと、飛びあがって抗議の声を上げる。
「というかですよ! アークス側の用意した居住区画、市街地みたいに表札ちゃんとしましょうよ!! たっぷり5ブロック先までダッシュして1軒1軒訪ね歩いた玻璃の気持ちが判りますか!?」
「随分行ったねぇ!?」
「いや本当はですね? おねーさんに合流するつもりだったんですけどねー? あの後改めておねーさんにご飯たかりましたらお説教付きでしたもので、天国だか地獄だか良く判らない状況になったんですけどもね!」
「う、うーん?」
「あ、ご飯は大変美味しかったです」
「そりゃあ、ルルの飯だからな」
「……どっちが本命だったのでしょう……」
 それまでの騒ぎに、ゆったりとした調子で本のページを繰っていた女性が首を傾げる。そちらにくるりと振り向いた玻璃は、腰に手を当てたドヤ顔で答えた。
「そりゃ日々の糧ですよフミナおねーさん!!」
「……はぁ」
「……他の家事を手伝ったりはしろよ?」
 呆れた文未奈と苦笑した社が口々に言う。軽く目を逸らした玻璃だったが、ふと思い出したように言葉を続ける。
「えーっと何でしたっけか……えーと、あ。そうでしたそうでした、あのですね、先日の生霊もどきと言いますか何と言いますか、あの件なんですけども!」
「……あの件、ですか……」
 リザがぽつりと言葉をこぼし、潮緒とエンケドラスの顔が険しさを増す。社と文未奈は一瞬顔を見合わせ、玻璃の次の言葉を待つ。
「えぇ、玻璃が留守の間におねーさんの部屋が空っぽになっちゃってですね、それ以来どーにも変な気配がございまして! 最初はまさかの霊感物件化かと思ったんですが、何かこー、今まで玻璃が経験したものとは毛色が違いまして。で、おねーさんと一緒に調べてみよーと思った矢先に、こちらにシオさんにそっくりな生霊? フォトン体? 何て言うんでしょーねアレ?」
「うーん……」
「そっくり……」
 当の潮緒は困ったように首を傾げ、社は玻璃の言葉に引っかかるものを感じたのか、鋭い視線を思案するように宙に向ける。その横でエンケドラスが一瞬、凄まじい殺気を放つ。それにいち早く反応して飛びあがったのは玻璃だった。
「まー、そんなモノが出まして! またそれがおねーさんの部屋で感じたみょーな気配に近かったんですよってエンちゃんおねーさん怖!?」
「母さん、私はここです……大丈夫です」
「ん、それはそうなんだけど……」
「フォトン体と言いますか……何でしょうね、アレは……」
 縋るように体を寄せる潮緒を撫でながら、エンケドラスが口ごもる。リザがその後を継ぐように言葉を挟んだものの、納得のいかない顔になる。その時、社が何かに思い当たったように小さく声にした。
「……エモニ……そうか。野郎、まだ……」
「とりあえずおねーさんは部屋に近付かない方が良さそうなので、出禁は言い渡してあるんですがね! とりあえず玻璃の方でもこんな事案は初めてですので、ちょっと面白」
「おい」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「巫女的な! 巫女的な意味でですよ!?──うぐぐ、皆様の目が痛いですー……」
 その場の全員の白い目を一身に浴び、玻璃の鉄面皮にも流石に冷汗が浮く。
「やー、霊感的なことでしたらある程度対処できるんですけどね? フォトン絡んだ件は初めてなもので! なので、先日出遅れた分も含めて、玻璃、ちゃんと働いてますからね!?」
 ごそごそ、と玻璃が巫女服の袂を探る。そして取り出したものと周囲を見回し、すたすたと社の前に足を運んだ。
「社おにーさん、とりあえずこれをお渡ししておきます! エンちゃんおねーさん、何か勢いに任せていきなり握りつぶしちゃいそーなので」
「握り潰すってあたしは一体何なの!? あたしの認識は!?」
「いやだって、この間『殺す! まだ殺す!』みたいなこと言ってすっごい荒ぶってらしたとか!」
「はぁ!?……あー、うーん」
「おいおい物騒だな、カーチャン」
「娘の外見パクられたらそうもなるでしょ?」
「……あぁ、一片も残さん。……で、だ。何だ、こりゃ?」
 社の掌に乗っているのは、数個の結晶化したような石であった。アークスであればどこかで見たような、という印象を受けるのか、その場の人間の目が釘付けになった。首を傾げていた潮緒が玻璃に尋ねる。
「龍の水晶でしょうか?」
「はい、ちょっと玻璃の、と言いますか、おじーちゃまの伝手をお願いしまして、フォトンを物質に付与させたりとか、封じ込めるよーな研究をなさってる方にお話を伺ってまいりまして! 本来、霊的なものでしたらば、玻璃の出番ではあるのですが……先日おねーさんにお聞きしましたところ、こちらの攻撃がほぼ無効だったと」
「……えぇ」
 リザの端正な顔に、影が差す。社がそれを見て、確認するように口を開く。
「さっき、リザの体すり抜けたって言ってたよな」
「物理的なものは全く効果がありませんでしたわね……」
「うんうん、全く効いてなかった感じ」
「カウンターもするっといっちゃってましたしねー! はい、その辺も含めまして今依頼してますので! まー、出来あがるまでもう少しかかりそうだ、っていうのも合わせてお伝えしなきゃなんですけどね……」
「依頼? 大型のケージでも使うのか?」
「それ担いで追いかけるんですか? 相手、壁抜けますんで結構に不利になるかと!」
「……無理だな」
「現実的なのは、吸引器とのセットでしょうか……」
「何か見たことありますよそれ?」
 それぞれが口々に話す中、エンケドラスが悔し気に歯噛みする。
「ひと思いに潰せたらなー……」
「物理が効かないんじゃ、な」
 社の言葉に、エンケドラスが腰のカタナに手をかけながら頷く。その言葉に全員が一瞬考えこむ。その居並ぶ顔を見渡し、玻璃が改まったように声を発した。
「とりあえず……先日ちょっと気になってますのが、あの場にいらした皆さん、アレに触れられていらっしゃるので……体調不良とかないですかね?」
「全く、元気過ぎるくらいに?」
「少し寒気が出た程度ですね……」
「そのようなことは……」
 エンケドラス、潮緒、リザの言葉に、玻璃の目が丸くなる。そして首を傾げながら、ぶつぶつと呟き始める。
「玻璃の考えすぎですかねー……おねーさんも先程お聞きしたら、特に体調に問題はないと仰ってましたし……」
「相手が相手が相手だからなぁ、何でもありのような気はする……」
「それはそーなんですが、エンちゃんおねーさん!」
「何か、やっぱ悪影響とかあるのか」
「それがイマイチ判らないんで、玻璃も打つ手がないんですよねー」
 再度首を傾げた玻璃の懐で、端末のアラームが鳴る。全員が一瞬そちらを見る中で、それを止めながら玻璃が言った。
「おっと、見回りの時間です!」
「此処にいる面子以外にソイツの目撃情報はないのか?」
「玻璃もですね、あの気配、感じていますのがこちらと、おねーさんの部屋でだけなんですよね。多分その辺で何かあるとは思うのですけども……とりあえず玻璃の出来ることはいち早い察知&ですとろーい!…じゃなかった、ですとろ出来ないので、おねーさんを避難させるくらいしか今のところ出来ませんで! 自主的に見回りしてるんですよ!」
「察知は出来る……と」
「はい、玻璃は出来ますね! あ、あとおねーさんも出来ますよ?」
「マジで!?」
「とりあえず、玻璃は行ってまいりますね! 一応、ここには気配はないと思うんですが……とかすごくフラグっぽいですね!! わー!」
 下駄の音も軽やかに、玻璃が駆け出ていく。止める間もないそのスピードに、リザが思わず呟いた。
「フラグですわよね……」
 ──そして、時間は進む。



「お、よぉ」
「……あら、ごきげんようですわ」
「おーっす……」
「はぁい、……なぁに、随分皆難しい顔ねぇ」
 いつものバー。入るなり空気が違うことを察してしまう。素早く視線を動かすと、臨戦態勢を解けないシオちゃんとエンちゃん、少し難しい顔になっているリザ様、……そして。
「……一番怖い顔してるわよ、社」
「……おっと」
 軽く笑って言うと、おどけたように頬の両端を指で押し上げるようにして、社が笑う。少しだけそれに安心して、カウンターへ足を向けた。
 さっきちびっ子とはすれ違った。……また、あの件なのかしら。ちびっ子は何かが引っかかるのか、やたらと私に質問を寄越していたけれど。
「ルル、体調は?」
「ん、えぇ、大丈夫よ、問題ないわぁ」
「……ひっく……よう、おまえら?」
 オディオが明らかに酔った様子で入ってくる。社が苦笑して、そのオディオに声をかけた。
「よぉ、水要るか?」
「……わりぃ、貰うわ」
「おうよ」
「サンキュー、色男」
「酒は怖いからな」
 社から水を受け取るオディオを見ながら、入口に背を向けて、カウンターに頬杖をつきかけたその時。聞き慣れた声が、また響いた。
「ごきげんようですわ」
「怖いからこそいいんじゃねぇか?……あ?」
「!?」
「……え?」
「ん? なんだリザ、また誰か来たのか?」
 言ったオディオの目線が不意に厳しくなり、私の背後を見た社の顔が瞬く間に笑みを消す。エンちゃんは咄嗟にシオちゃんを背に庇い、フミナちゃんが黙って本を閉じた。
「リザさんが……二人!?」
「……俺の飲み過ぎか? リザが二人いねぇか?」
「…………」
「どうなさいましたの……?」
「……なん……!?」
 リザ様の呻くような声に、やっと振り返る気力を振り絞る。ソファーに何食わぬ顔で座っていたのは、──リザ様そっくりに作られたような、キャストだった。
「何を、そんなに驚いていますの?」
「……どっちがホンモノって、聞くまでもなさそうだな」
 オディオが銃剣を取り出し、迷うことなく銃口を向ける。エンちゃんが少しひきつった笑みを口元に張り付かせながら、リザ様に言う。
「あー、リザ様一応聞きたいんだけど。双子の妹とか姉、いる?」
「……同型のサポートパートナーは居ますが、当然ですが、そのサイズですからね……」
「コイツやっぱり……!」
「……何時から居たのよ」
「まぁ、落ちつこうぜ?」
 エンちゃんとフミナちゃんがそれぞれ身構えるのに社が言いながら、カウンターをゆっくりと出る。コートを羽織りながらも、目だけはソファーに座る“それ”を見据えていて。険しさを増す目とは裏腹に、穏やかな声が言う。
「カウンターから見てた限り、リザはそこから動いてない。それにあのリザ、──リザっぽい奴、か」
 社が言いながら、私の前に立つ。そしてリザ様を確認するように、その視線が動く。
「……少し前の姿か?」
「私の体をすり抜けた時に、身体データを記録した、といったところでしょうか……」
「……あのちびっ子、気配ないって言ってたんだけどぉ」
「あのハリネズミは確か、霊感の方にアンテナが向いてたわよね……ウワサのアイツはフォトンだから」
「霊感はハズレで、フォトンが正解ってことかしらぁ……?」
 フミナちゃんの言葉を継ぎながら、フォトンを軽く展開させる。社の目が一瞬細められ、何かを手の中に握りこむ。その前で、にぃ、と──どう見ても不穏にしか思えない笑みを浮かべ、“それ”は声を発する。
「察しがいいですわね、リザ」
「……やはり」
 リザ様の纏う気配が、変わる。エンちゃんとシオちゃんは、お互いを庇いあおうとしているのか、低く話す声が耳に入る。
「……シオ、下がり気味で。 あたしが庇ったり、飛び出したりしないように」
「でも、母さん」
「シオ、聞いて。お願い」
「……はい。けど、自分を守る力は少しありますから、無理はしないでくださいね」
 ──後ろは、大丈夫。少しだけ息を吐くと、纏うフォトンが軽く揺れる。それに気付いたのか、社が低く言う。
「……余り、無理はするな」
「このくらいなら大丈夫よぉ、……社、無理しないでよぉ?」
「……ああ、判ってる。が、もう1、2歩下がっといて貰えるか?」
 社の言葉に、素直に数歩下がる。“それ”はそんな私を真っ直ぐに見据えながら、言葉を紡いだ。
「何も取って食おうというわけではありませんわ。──すこぉし、借りただけですもの」
「借りただけ、な。体も口調も真似て……そうまでして、欲しいか」
「何のために?」
 先程までのゆったりとした気配を何処に隠したのか、フミナちゃんが鋭く声を放つ。“それ”はまるで、本当に不思議そうにさえ見えるしぐさで首を傾げながら、ふわりと立ちあがる。
「何せ、なかなか手折れなくて困っておりましたの」
「折らせる気が、ないからな」
「ですから、彼女に手を差し伸べた方に為れば、少しは近付けまいかと、思ったのですけれど」
「……見た目だけではないですか……」
 リザ様の硬い声に、“それ”はまた笑う。そして、ゆっくりとリザ様に向き直るとにこやかに言葉を返す。
「こうすれば、貴方方は混乱しますでしょう?──先日、そちらの親子ですかしら。随分な剣幕でしたし、ねぇ」
「ああ、同じ顔の奴が急に増えればそりゃあな」
「悪趣味な事しやがって……手が届くならとっくに刎ねてるのにさ……!」
 エンちゃんが歯噛みする音すら聞こえそうな勢いで言う。シオちゃんも同じ思いなのか、咄嗟に手にした鞘が微かな音を立てている。その2人を見ながら、“それ”は言う。
「ヒトは、こうも脆弱ですのに、何故、こんなに感情を得るのでしょうね?」
「弱いからな。……弱いからこそ、感情が無きゃ潰れちまう」
「恐れ、怯え、怒り、──そして、弱さを得、守ろうと。わたくしが、少し真似事をするくらい」
 会話……というよりも、独り言に近いのかも、しれない。“それ”の言っていることは、そのくらい周りの声と噛み合わない。
「えぇ、もうすぐに、永遠に近いモノに届きますから、そのくらいのことを、真似るくらい」
 ノイズのない柔らかな声が、笑みに近いものを孕む。そこだけ聞けば、まるで本当のリザ様が居るかのような模倣だった。一瞬姿がかき消え、リザ様の直前に“それ”は移動する。無理矢理に似せた顔を近付けるように微笑む姿は、悪夢にしか思えない。その光景に、シオちゃんの緊張に満ちた声が響いた。
「リザさん!?」
「……!?」
「良いですわよね、わたくし?」
 喉の奥で浮かんだ笑みを擦り潰すように、“それ”は嗤った。それと同時に社の手から片方のワイヤードランスが放たれ、オディオの銃剣も火を噴く。けれどほぼ同時の攻撃は、“それ”をすり抜けて通らない。リザ様の手に大きすぎるほどの銃が2丁、瞬く間に転送される。オルトロスと呼ばれるその銃が至近で連射されても、“それ”が浮かべる嗤いは深くなるばかりだった。放たれた銃弾は全て、“それ”をすり抜ける。ワイヤーを引き寄せた社の低い声が、呟く。
「……物理攻撃効かないってのは、本当だな……相性、最悪じゃねーかよ……」
 ……そう、何も出来ないでいるのは、この物理攻撃が通らない状況の所為。何が有効なのかも判らない、というより……何を目的にこうしているのかが、判らない。私はお世辞にも、能力の優れたアークスじゃない。こんな風に狙われる覚えが、どう考えたってないのに。
“それ”はリザ様の前で唇を歪めるように嗤うと、言う。
「……返事はソレで終わりですの?」
「リザ様、」
 まさか何かをしようと、と。──不安で声を発した瞬間に、“それ”の視線と合った。続けようとした声が詰まる。浅く息を吸った時、“それ”が続けた。
「でしたら、」
「……消えた……!?」
「っ、何処──」
 目の前に居たリザ様と、私の前に立つ社が同時に声を上げる。慌ててフォトン感知をしようとした矢先に、容赦のない力が私の髪を後ろから引いた。
「っ、あ!」
 自由の利かない視界を無理矢理捩じるようにして振り仰ぐと、“それ”は嗤った顔のまま、私を見下ろしていた。感情の浮かばないその眸に、私の怯えた瞳が映っていた。
 言葉にならない声が、すぐ側で弾ける。その声にも動じる素振りさえ見せず、容赦のない力が私の髪を掴んで、後ろへ引く。引きずられながら見た、こちらを振り返った紅い目は、今まで見たことがないほどの怒りに満ちていた。
「触れんじゃねぇ……触れんじゃねぇ、触れんじゃねぇ」
 フォトンを込めた拳が、青白い炎のように見える。普段からは想像の出来ないその色は、灼くほどの怒りが社を焦がしているのだと、思い知る。痛みを堪えて社へ手を伸ばそうとすると、首が持っていかれる勢いで髪を引かれた。
「い、たっ……!」
「触れんじゃ、ねぇ!!」
「……ふふ、忘れていますのね?」
 私を“掴んだまま”の“それ”は、力任せに振り下ろされた社の腕を“すり抜け”、更にその半身をも“すり抜け”た。ぎり、と音を立てそうな勢いで噛みしめた社の唇から、声が漏れる。
「……ッチ、くそっ実体ないとか前より性質悪い……!」
 社の拳が、血の色が引くほどに固く握られている。引きずられるように距離を取らされる私と、その私を捕まえようと腕を伸ばす社の後ろから、宙を裂くように煌めくモノが飛んでくる。
 それが、固く唇を噛みしめるリザ様の手元から飛ばされたタリスの一片だと気付いたのは、私のすぐ横をすり抜け、背後に立つ“それ”の持つ何かに当たる音を聞いたからだった。僅かに鳴った硬質の音をかき消すように、落ちたタリスが闇色のフォトンを吐き出す。足元から這うように伸びていくそのテクニックは、イル・メギド……腕を模した黒いフォトンが、足元から這い上がる。行方を目で追うその先に、私はそこにあるはずのないものを見た。
「晶花……!?」
 イル・メギドが、ダガーに結晶を模して纏わせていた私のフォトンを剥ぎ取っていく。結晶は解けるように消えていく。中から現れたのは、私のよく知る守り刀……朧だった。
「……それ、あたしの……! 何で持ってるの!?……私の、守り刀!」
「……それも、増版済みってこと?」
 眉を顰めたフミナちゃんが呟くその前で、“それ”はゆっくりと片方の刀身を抜き放つ。鈍く煌めくのは、実体の刃。目が、釘付けになった。
「……守り、刀……って、おい、それ」
「無くなって、たの……部屋、何も無くなって、これも!!」
「あの時、家具と一緒にかよ……!」
 私の声に、社の目が更に険しくなる。ぎり、と何かを握りこむ姿を見てか、シオちゃんの緊張した声が響いた。
「社さん! さっきの石」
「あぁ、コイツで……どうだ!」
 一瞬手の中の何かを確認した社の腕が、勢い良く振り抜かれる。そこから投げられた何か……石が、私の背後に直撃する。振りあおいで見ると、一瞬ぐらりと揺れた“それ”の側頭部は、抉れるように消し飛んでいた。
「……乱暴ですのね?」
「……ええ、それは勿論」
「まずは、離れろよ……!」
 リザ様が“それ”へ、冷ややかに答えた。その間に、社は石を握り込んだ手をこちらに伸ばす。何とか逃れようとする私が暴れるのに焦れたのか、“それ”は一際強く、私の髪を引いた。
「ん、あ、」
「……うるさい方達ですね」
 視界に、細く鈍い光がゆっくりと振り上げられるのが見える。周囲が一斉に息をのんだのが、判る。それぞれの得物が抜き放たれる音が、遠く聞こえる。その中で、社の声が更に緊張を帯びて響いた。
「……オディオ、それ撃て!」
「……あいよ」
「させるか!!」
「待ちなさいよ」
 正確無比な3連射から始まったオディオ、エンちゃん、フミナちゃんの射撃が、振り下ろされる切っ先の向かう先を逸らさせる。けれど、髪を引かれる力は緩まない。無理矢理身をよじった瞬間、鈍い音と共に体の自由が戻った。
「っ、た……!」
「ルルーディアさん!」
「シオ、ルルを!」
「っ……ごめ……、ん」
「謝るのは終わってからです!」
 駆け寄ってきたシオちゃんが私を引きずるようにカウンターの後ろへ押し込む。そして、エンちゃんと一緒に私の前に立つと、身構えた。
「……あぁ、全く。困ったものですわね……」
「こっちのセリフだ、っつの……!」
 一気に状況は動いていた。切られた私の髪を手にしたまま眉を顰める“それ”は、皆に囲まれていた。“それ”の背後に立ったオディオが、手にした得物を突き付けながら言う。
「んで、次の手はなんだ?ニセモノ」
「……もう少し、遊びませんこと?」
「お断りですわね」
 “それ”の視線の先に立つリザ様は、“それ”の嗤いを一蹴する。社はそのやり取りを聞いて、伏せていた目を上げた。その目が酷い苛立ちに沸いているのに、気付く。
「……今。首、狙ったか?」
「えぇ、ソレが何か」
 問答無用の速度で、社の手から指弾が飛んで。放たれた石は、違うことなく“それ”の目を撃ち抜いた。がくん、と身体を揺らしながらも、“それ”は尚もリザ様へ言葉を投げる。
「……本当に乱暴、ですこと……ねぇ、わたくし? そうは思いませんこと?」
「その言葉、そのまま返してやろうか?」
 低い社の声に、今にもカタナを抜き放とうとするエンちゃんが叫ぶ。
「いきなり刎ねようとする奴が……乱暴なんて言葉使えないよ? ましてや他人に!」
「生憎、私も……敵と判断したものには容赦のないものでして」
 リザ様の声に、“それ”はひび割れたような声で笑う。
「……ふふ、うふふ。見ているだけかと思いましたわ」
 そして、リザ様に向けて“それ”は一歩を踏み出した。
「……守ろうと、猛る者。守ろうと、見つめる者」
 フミナちゃんの剣が“それ”の行く手を遮り、続く社のソードが振り抜かれる。崩れるように膝を着いた“それ”は、グラムを振り上げるリザ様を見て、また嗤った。
「得難きを、得るのは……面白い、ですわね?」
「消えるのは構わんが、ソレは置いてけ」
 社が、崩れる“それ”の手から、朧の片方を掴み取る。そして、容赦のないリザ様の斬撃が、“それ”へ振り下ろされた。ざらざらと崩れていく“それ”は、ゆっくりと辺りを見回しながら形を失っていく。
 そして、私をもう一度見た“それ”は、崩れていく顔に笑みを浮かべて、呟くように言った。
「……『執着』は、断てた、かね?」
「……どういう、」
「……執着?」
「──エモニ、執着。アイツが名乗った名だ」
 社が言って、小さく息を吐いた。そして、手にしたソードを放り出して私に歩み寄ると、手を取った。
「……すまん」
「……謝ることじゃないでしょ?」
「……狙い、判ってたのにな。対処ができなかった」
 握る手に、力がこもる。僅かに震えるその力が、何より雄弁に後悔と口惜しさを語っていた。そっとその手を握り返す。けれど、指から伝わる温もりとは真逆の寒気が、うなじを走る。その震えに気付いたらしい社が、眉をひそめた。
「……今日はもう休め」
「……このまま眠れるとは思えないわ」
 笑おうとして、顔が強張るのを感じる。それを見つめる社の目が、僅かに厳しくなる。少しだけ目を逸らしながら脚のユニットにフォトンを吸わせようとする私に、シオちゃんが何かを思いついたのか、明るい声を上げた。
「……あの、社さんルルーディアさん、その、今日は……二人一緒に寝るのはどうでしょうか?」
 ──屈みかけていた身体のバランスが崩れた。社も気持ち、凍りついているのが判る。リザ様もどう声をかけていいのか迷うのか、言葉がない。その中、エンちゃんだけが言ったシオちゃんを抱えて嬉しそうに声を上げる。
「二人が一緒に寝るのには大賛成かな! 娘の意見だし!」
「……シオちゃん?」
「真面目な話です、お互い不安だと思っているので」
「……そうするか」
 社の手が、私の手を強く握る。思いがけない反応に、真剣な眼差しをしたその顔を真正面から見てしまい、頬に熱が昇る。
「え……え? な、えっ、ちょ」
「……何かあったとき、すぐに動くなら近い方が良い」
「……っ、」
「……ふふ」
「おーおー、見せつけるねぇ」
 リザ様の穏やかに微笑む声と、オディオの冷やかす声が追い打ちをかけに来る。けれど、更なる追い打ちはまた別の方からやってきた。
「大丈夫です、私の父さんと母さんも一緒のベッドで寝ていますから! そうですよね?」
「ん! そーだよ! ってちょっと待った!? シオさんシオさんそれ外で話して良い事じゃないよー!?」
「……あの子凄いわね……ものすごい勢いで切り開いていくわよプライベート……」
「無邪気って、最強だよな……」
 顔を見合わせて、笑う。……今度は、強張らずに笑えた、ように思う。



 ──10年以上前に、時間は遡る。
 この当時からあった生体からキャストへの移植技術、しかしそれは、一般に受け入れられるものではなかった。人がヒトとして認められない、尊いとされる人の命を繋ぐためにヒトとして差別が生じる、その矛盾。
 それを、憂いた研究者が居た。
 人もキャストも、均しくヒトであることを願って、立ち上げられたプロジェクト──冠されたのは『アフトマティ・ククラ』。略して、α-KKLプロジェクトと、いう。
 人としてフォトンの制御が難しいために、キャストの身体を得る。しかし、そうすればヒトとしては認められない。人とキャストの融合を目指し、新たなヒトとして生まれ変わらせること。それを主目的とするものだった。──少なくとも、研究者の生前は。
 近年の研究成果は、凡そ行える限りの人体実験を繰り返した、というだけに留めよう。フォトン適性の高い人間を基に、キャストのAIを埋め込み、最大限までフォトン制御を可能とさせる、義体への移植実験。本来であれば移植の必要もない人間すらもがその対象であったことが、恐らくこのプロジェクト一番の闇だろう。研究者の最初の意思は最早なかった。ただ、新たなモノを創りだす欲だけが、先走っていた。
 そのプロジェクトが完全停止したのは、2年程前に起きた、某研究所職員の鏖殺事件がきっかけだった。実験体も研究者もすべて殺害されたその事件により、プロジェクトは終ぞ完成を見ないまま幕を閉じる、はずだった。
 ……そう、そのデータを入手してしまったから、だ。
「……氷の花」
 データは万全なまでに、ある。彼女のフォトンの傾向からどのように彼女のフォトンが循環するのか、手に取るようにもう判る。あとは、融合のために必要な『一押し』だけだ。
 なぜ、プロジェクトが完成を見なかったのか。それは、人を主としたからだ。最初からAIを主としていれば、拒否反応も何も関係なく義体への移植も行えたはずなのだ。人は脆弱で、苦痛に耐えることも出来なければ、余りに脆く失われるものだ。それを主に置けば、こうなることは判り切っていたであろうに。
 だから、失敗などしない。あの、いつか失われる花を、永遠の花とする。そのために、このような不安定な姿を取ったのだ。彼女の残留フォトンを辿り、それを使ってフォトン体となり、彼女を必ず、この手に。


【to be continued...】
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2018.05.01(Tue) | 『名も知らず、咲き誇る花』 | cm(0) |

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