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白銀 桜

Author:白銀 桜
万華鏡、うつくしいかたちをみるもの。
映るものを、言葉に変えて。

日常、PSO2/PSUでのRP、創作など。

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【PSO2/RP】氷の花、開く。【20170909/Re-play】
 いつものバーで、いつものように寛ぐ。新しいカタログから選んだ黒のドレスは、背中が大きく開いたデザインだ。入ってきたこちらを見て、ぽかんと口を開けていた潮緒ちゃんが呟く。
「わぁ……」
 齧りかけのパンを落としかけて器用にキャッチする姿は、普段のかっちりした姿からはあまり想像できない子供らしさで、思わず笑みが浮かぶ。
「ん?」
「あ、いえ……その、見惚れてしまいまして……」
「うふふ、ありがと」
 グラスに飲み物を用意して、フォトンを少し弄る。――このくらいは許容範囲、よね。フォトンで形成したロッドの上に座ると、潮緒ちゃんの目が丸くなった。
「わ、飛んだ……!?」
「飛ぶ、というよりは浮く、に近いわねぇ……フォトンチェアとかに近いわよ、これ」
「衣装の組み合わせと相まって……まるで魔法使いみたいです」
「魔法使い……と言いますか、魔女と言いますか……」
 苦笑交じりにリザ様が言葉を挟む。潮緒ちゃんがその言葉に、改めて私をまじまじと見つめた。
「魔女ですか……合っているような気がしますね」
「……まぁ、今は結構にポンコツな魔女な気もするけどぉ」
「ポンコツ、ですの?」
 リザ様が首を傾げた。――短い付き合いじゃないリザ様だから、私がどの程度テクターとして走ってきたかはよく知っているだろう。肩を竦めて小さく笑うと、私は言葉を続ける。
「ほら、B-72区画の件、――あれで完全にやらかしちゃったからねぇ。カイとエンちゃんも結構大変だったでしょ?」
「…………」
 言うと、リザ様の眉が少しひそめられた。思い出したのか、潮緒ちゃんも少し暗い顔になって、口を開く。
「はい、2人からお話を聞きました。無茶をした理由も、フェイリュアが覚悟を決めた理由も……」
「……この間皆に迷惑かけた件も、そこからだし、ねぇ。ドクター……ムラクモ博士のトコに厄介になったりもしてたし。今はユニットの調整も済んだから、一応普通に生活できるようにはなったんだけど……フォトンの暴走防ぐために、四六時中ユニットからの調整受けてる感じなのよね。だからポンコツ、ってわけよぉ」
 知らず、小さな溜息がこぼれた。ドクターには週1で来るようにと散々言われながらも、やり過ごしたり誤魔化しているのは……流石に言えない。モロスの旦那が、軽く腕組みをしながら首を傾げる。
「まぁ、いろいろと報告書が上がってはきてるが……いくらかぼかされてるような記述は、見受けられたが、な」
 教導部の方に話が行った、ってことは……あまり派手な動きはしない方が良さそうね、と。軽く目線を逸らしながら思ったその時、端末が鳴った。タイミングがタイミングなだけに、潮緒ちゃんの側に座っていたエンちゃんの眉根が微かに寄った。
 端末を確認すると、ルームシェアにひょっこり現れたちびっ子からのメールが届いていた。
「ごめんごめん、アスマの部屋占拠してるちびっ子からのメールだったわぁ」
「小さい子からのメール……?」
「な、なんて? タイミングがタイミングだから、ちょっと心配だけど……」
 エンちゃんが少し身を乗り出す。メールに軽く目を通すと、部屋の違和感の件で少し打ちたい手があるらしい。小さく頷いて、グラスを置いて立ち上がる。
「ちょっと行って来るわ、すぐ戻るからぁ」
「き、気をつけてね!?」
「やーねぇ、そんなフラグじゃあるまいし……」
 言えば言うほどフラグよね、これ……思いながら苦笑して、私は自分の部屋へ向かった。



 下駄の小気味よい音と共に、巫女服姿の小柄な少女がバーへ駆け込んでくる。周囲を確認する前に、やや高い声が叫んだ。
「おねーさーん!!」
「呼びましたかエンお姉さんです!!」
「あれ」
 勢いの割に息を切らせることもなく、周囲を見渡した少女は肩までの髪をさらりと揺らして首を傾げる。その場の人々が挨拶の言葉を口にするのもそこそこに、少女は丁寧に一礼した。
「というか皆様こんばんはー、ですよっ!……あれ?」
「どうしたのですか、神妙な顔をして」
「ん?」
「どうかしたかい?」
「いや、玻璃、こちらでおねーさんと待ち合わせたつもりだったんですが」
 首を再度傾げ、玻璃と名乗る少女は言う。艶やかな黒髪を背中の中ほどまで垂らした小柄な少女・潮緒は、その姿に同じように首を傾げる。
「おねーさん……?」
「あ、はい、お部屋のシェアをさせていただいてるおねーさんです! 最近お留守なんですけどねー」
「ん、と?」
 燃えるような赤の髪を無造作にかき上げ、潮緒の隣に座る女性・エンケドラスも首を傾げた。玻璃は落ち着かない様子で周囲を窺いながら、言葉を続ける。
「あ、えーとですね? 玻璃、アスマおにーさんの部屋を占拠じゃなくえーっとそう、お借りしてまして! で、アスマおにーさんはえらいお色気系のおねーさんとルームシェアしてたそーで、たまに玻璃もご飯作ってもらってまして!」
「……占拠してるんだ……」
「……そのおねーさん、って……」
 偉丈夫、という言葉がしっくりするような長身の男性・モロスが呟く。潮緒は少し悩んでいたが、小さく声をこぼす。
「……あ!」
「いや、そのおねーさんが最近お留守、というかお部屋空っぽになっちゃっててですねー」
「空っぽに?」
「そーなんですよエンちゃんおねーさん! それも留守の間にですよ! 何かそれ以来、と言いますか、これ玻璃が帰省中の出来事だったらしいんですけども、戻りましたら何やらこー、見えるような見えないような感じるよーな感じないよーな何とも言えない気配がですねー……」
「……ヤバくない? ゆ、幽霊とかやめてよ……!?」
「で、なーんか気持ち悪かったので! 玻璃がちょっとこう、巫女的に一肌脱いでですね! あわよくばおねーさんのお部屋をそのまま占拠じゃない、ごちそーとか作ってもらっちゃおうかとかそんな下心があるとかないとか言いませんが!」
「えーと、そのおねーさんって……こう、髪の色が薄い感じか?」
 モロスが少し考えこみながら言葉を選ぶ。その言葉に、玻璃は勢い良く頷いた。
「あー、ブロンドっていうんですかねー、ちょっとピンクっぽい感じの!」
「ルルーディアさんだ……」
 潮緒がぽつりと呟く。その言葉に振り返った玻璃の目が、空中の一点を見つめて止まる。そのままぶつぶつと何かを呟きながらあらぬ方を見つめて周囲を見回し始めるのに、エンケドラスが青褪めた。
「……幽霊は勘弁ーーー!」
「や、何かですね、お部屋でも感じたよーな気配が……霊的と言いますか、フォトン的と言いますか、何だこれと言いますか!」
 その言葉に声もなく立ち上がり、エンケドラスはカウンターの後ろへ逃げ込むと潮緒へ手招きする。慌てて駆け寄る潮緒を抱きしめるその様子を見た、褐色の肌に赤い目が強く光る男性・オディオが唇を歪めるように笑いながら声をかける。
「オイ、エン! オメェの後ろになんか白いモンがいねえか?」
「いない! いないから!」
「こう、残り香って感じか?」
「あ、それに近い感じが!――ちょっと玻璃、本気出していいでしょうか!!」
「本気出して!!」
 モロスと話しながら眼鏡を外す玻璃に、エンケドラスが悲鳴に近い声を上げた。縋りつき、微かに震える潮緒を撫でるエンケドラスの手もまた震えている。それを見てまた、オディオが楽しげに笑いをかみ殺す。
「くっくっ……面白いなコイツァ」
「オディオさんは幽霊、怖くないのですか?」
「馬鹿言え、そんなのあってたまるかっての」
 潮緒とオディオが話すのを横に、玻璃は眼鏡をしまうと一振りのカタナを抜き放つ。儀礼用なのか、白と赤で装飾されたカタナが、その場の光を集めて光る。
「いきますよー!」
「わずかな気流の乱れを察知する小動物みたいだな……」
「……気配探査みたいなものだとご理解ください!」
 言うなり、玻璃の周囲を紅葉を模したフォトンが渦巻いた。金と銀の両眼は宙を見据えて、異様なまでの光を放っている。その姿に、潮緒が息をのんだ。
「ただしですね! 玻璃、眼鏡外しますとほぼほぼ前見えませんので!」
「…………」
「ダメじゃないのー!?」
「おいおい、大丈夫かこのガキ」
 今まで流れを見守っていたリザの沈黙を、エンケドラスとオディオが代弁する。玻璃は見えないと言った割に足取りも軽く周囲を跳ねまわりながら、その言葉に答える。
「あ、その代わりにこう、見えないものが視えると言いますかー!」
「目が見えない人が、フォトンで周囲状況を確かめる能力を得たってのはたまに聞くが……視力が悪いというか、色とかも判らなくなる系か?」
「……大丈夫ではないような」
 リザが思わず言葉をこぼしたその時、バーの入り口付近でバランスを崩したらしい玻璃の悲鳴が上がった。
「にょあああああああ!?」
「アッ」
「…………」
「あ……」
「ちょ!」
 見事なまでに転がった玻璃の身体が、入り口のドアを開けてしまう。呆れたような顔のオディオと、僅かに案じる色を見せるリザが、その玻璃に近付いた。
「いだだだ……あれ、シオさん、随分早いお着きで」
 開いた入り口の向こうへ光る目を向け、玻璃が言葉をかける。その言葉にその場の全員が動きを止めた。
「……あ? オイ、潮緒ならカウンターで隠れてんぞ?」
「ええと……私はここにいますよ……?」
「ほへ?」
 きょとんとする玻璃の横をすり抜け、黒髪の少女の姿をしたそれはオディオの腕に手を触れる。一瞬にして警戒の色を目に見せたオディオを横に、リザに近付いたそれは、再び同じように腕に触れる。そしてそのまま、リザの身体をすり抜けた。
「!?」
「……何だこいつ?」
「し、シオ……あ、あれ、まま、まさか……!?」
「……幽霊」
 潮緒の目は、入ってきたそれに釘付けになったように動かない。エンケドラスは震えたまま、その潮緒を抱きしめる。玻璃はがばっと立ち上がり、音もなくバーの中へ足を踏み入れるそれを指さして叫ぶ。
「ちょ、え、えー!? 玻璃ちょっとすごくないですかこれ!?」
「何だこのガキ……!」
「バカオディオ!! 撃つな!!」
「んだと!?」
 言うなり銃を抜き放ったオディオに我に返ったエンケドラスが叫ぶ。軽い恐慌状態に陥っている全員の顔を見回し、モロスだけが動じない様子で首を傾げた。
「……? なんだ、2人ともどうした?」
「も、モロスさんは見えないのですか……?」
「見え……え?」
 その様子に玻璃は全員の顔を見渡し、声を上げた。
「あの! 現状確認できてる方は!?」
「……あ、あたしには見えるんだけど……ほら、そっちに黒い髪の女の人が!」
「おい、こりゃどういうことだ?」
「見えてはいますが……しかし、すり抜け……」
 軽いパニック状態のままそれを指さすエンケドラスにオディオが苛立った顔を向け、リザは自分のボディに視線を降ろす。モロスは怪訝そうな顔を指さす方へ向けるが、その顔に状況を把握できた色はない。その中、青褪めた唇をようやく動かし、潮緒が呟いた。
「わ……私……?」
「……クス」
 それの唇から、僅かな呼気と共に笑みがこぼれる。歩みを止めず、それ――潮緒によく似た背格好と顔を持つ少女は、カウンターをもすり抜けた。
「……ちょっ」
「な……!?」
 目の前に現れたそれが、咄嗟にソードを構えた潮緒の腕に触れる。エンケドラスの顔に一瞬にして焦りが走った。
「ま、待ってシオに何するつもり!?」
「……? なにやってんだ……?」
「あぁ!? 潮緒によく似たガキが本人に近付いてんだよ!」
「モロスさんには見えないのか……!」
「……チッ」
 エンケドラスの腕にも触れてカウンターを再びすり抜けたそれへ、オディオが威嚇射撃を放つ。しかし、その銃弾はそれをすり抜けた。
「……な……!?」
「何だろうな、こう……違和感みたいのはあるんだが……」
 目の前で起きた事態に絶句するオディオと、首を傾げたままのモロスの様子を見、きり、と玻璃の眉が上がる。両眼を見開いたまま、玻璃は小さく言葉をこぼす。
「霊的なものと思いましたが、これ何か違います!……フォトン? フォトン、と……何か生霊的な、」
 そこまで言いかけた瞬間に、玻璃の懐からけたたましい着信音が鳴り響く。集中が一気に解かれたらしい玻璃が飛び上がった。
「にょあー!? なななな、あ、……おねーさん」
「……向こう」
 慌てて端末を操作する玻璃を見つめるように、それは足を止めた。小さく呟かれた言葉に、エンケドラスの眉が寄せられる。
「……え」
『ちょっとちびっ子、何処にいるのよぉ?』
「おねーさんこそ待ち合わせだってメールしましたのに!」
『え? もう部屋に居るわよ、あたし』
「ちょっとー!?」
「――なるほど、これが見えてたってわけか」
 スピーカーモードなのか、気怠そうにも聞こえてくる声に、玻璃が叫ぶ。その間にバイザーを展開し、空間のフォトン可視化を始めたモロスが、ようやくそれを視認して絶句した。その間にもそれは、小さく小さく言葉をこぼしていた。
「……居る……花、が」
「『向こう、いる』……? 花……? な、なんだって言うの……」
『貴女、何かフォトンで気配探知とか言ってたけど……何、あたしがやればいいのぉ?』
「いやあの、それが今目の前にあの」
『へ?』
「……居る、のか」
 潮緒を模したそれの顔が歪むように笑む。潮緒はその言葉に弾かれたように顔を上げる。
「まさか……この子の目的って」
「何言ってやがるんだ……?」
 オディオが眉をひそめたその時、それの姿はかき消えた。瞬間、視界にノイズが走ったらしいモロスがのけぞるようにバイザーを外す。玻璃は慌てて周囲を見回しながら端末に向かって話しかける。
「おねーさん待機! 待機です!!」
『ねぇ、何?……ちょっと、ちびっ子? え?――っていうか何、すごい変な気配……』
「玻璃さん、急いでルルーディアさんのところに行きましょう!」
「オイ、コイツは急いだ方が良いんじゃねぇか?」
「こっちが動くのもそうだが、こりゃルルーディアも逃げた方がいいんじゃねぇかな……」
 それぞれの端末に向かって座標を送信した玻璃は、カタナを背負い直して全員の顔を見渡す。
「玻璃、とりあえず先行しますので! 皆様もご無理なさらずに!」
 言うなりまた、小気味の良い下駄の音を響かせながら、玻璃はバーを駆け出して行った。



 ……いきなり切られた端末をしまいながら、がらんとした部屋を眺める。空調も入れていない部屋は、何か薄寒くさえ感じる。ゆっくりと確かめるように、自分のフォトンを展開させる。氷を模すように煌めくフォトンの量は、暴走しかけていたころに比べると落ち着いている。大丈夫、これならコントロールできる。
「ルルさん、無事!?」
「え?……エンちゃん?」
「あたしだよ! エンだよ!」
「大丈夫ですか、ルルーディアさん!」
「どうやらまだ無事みてぇだな」
「……そのようですわね……」
「声……向こうからだ!」
 ……聞き覚えのある声とフォトンが、耳とセンサー代わりの広げたフォトンに届く。振り返ると、心配そうな顔が次々と見えた。
「え、えぇ、大丈夫だけど……ちびっ子は?」
「そ、そうなんだ……ま、良かったぁ、もう何か大変なことになってるんじゃないかーって……」
「先にこちらに向かっていたはずなのですが……」
「あ? 先来てるんじゃねぇのか?」
「……なんだ、こりゃあ」
 ……また迷ってるのかしら、あのちびっ子。思う私の前で、モロスの旦那が眉をひそめる。部屋の明かりは調子が悪いのか、薄暗いままだ。苦笑して、私は手を広げて口を開く。
「留守の間に、勝手に片付けられてたみたいで……それでこの様、ね」
「片付いてるのはまぁ判るけどなぁ……」
「参っちゃうわ、結構気に入ってたものもあったの、」
「……花が」
 広げたフォトンに一瞬、泥を投げ込まれたような悪寒が走る。私の背後を見るエンちゃんの顔に、一気に緊張が走った。
「……さっきの!?」
『ガッ、ガガガッ』
「っ!?」
 肩が跳ねた。この、ノイズ……何で、また? モロスの旦那がバイザーを展開してるのが目に入る。忙しなく点滅を繰り返すそれに、何かを計測しようとしていることだけは判った。
「フォトンの流れが……!」
「ルルーディアさん……気を付けて」
 青褪め、強張った表情でシオちゃんが私を見上げる。その手には既に剣が握られている。見れば、エンちゃんやオディオの手にも銃剣が握られていて、リザ様もゆっくりと大型のツインマシンガンを抜き放つところだった。自然と纏うフォトンの量が、増えた。
「ルルさん、ちょ……っ!」
「大丈夫、コントロールはまだ出来てるわ」
 言いながら、ゆっくりと振り返る。ノイズの……今だに耳に残るそれの正体を確かめる、ために。
「……や、ぁ。物々しい、ことだね?」
「その声……前に聞きましたね」
「シオ、知り合い?……友好的な?」
「気を付けてください、声の主は前にルルーディアさんに何かをした人です……」
「……ま、そうだろうな」
「さっきの、あたしがユニットでフォトンコントロール出来てる、って話。調整した技師が居たんだけど、それが……」
 言葉もそこそこに、まじまじと目の前に立つ姿を見つめる。ちら、と隣を視線だけで見比べ、呟く。
「……シオちゃん?」
「この、姿、は借りた、モノ、だが――初め、て、お目にかかる、方もいそう、だ」
 綺麗に一礼する姿は、悪趣味以外の何物でもなかった。エンちゃんの声が低く怒気を帯びていく。
「……あたしの娘と同じ顔してんの、ホントに癪に障るね……!」
「……フォトンだけの存在? 見える皆が羨ましいぜ……バイザー越しにしか見えん」
「……馬鹿言え、見えたって良いことねぇぞ?」
 モロスの旦那が小さく口にして、オディオが吐き捨てるように返す。その言葉に、もう少しフォトンを広げてみることにする。シオちゃんを真似たそれは、うっすらと歪んだ笑みを見せながら言う。
「そういった、技術、がある、とは聞いて、いた。使い勝手、のいい、ように、今日、は、この姿、をとった。……エモニ、と、この自我を呼称して、いる」
「……ホントにあの技師なの?」
「……君を模した、が、得られ、なかった。……ならば、」
 目の前で笑みが深く、深く歪む。背筋に冷たい汗が落ちる。隣で剣を握り直す気配が、銃剣を構える気配が、高まっていく。
「どのよう、な、手段を、も、選ばない」
「……冗談でしょぉ」
「氷の花、が、咲き続ける、ならば『ガガッ』――この手に、得るために……『執着』、を」
 咄嗟に、指を鳴らしてサ・バータを降らせていた。けれど、いくつもの氷柱は床に突き刺さるだけでダメージが通った気配はない。
「手、出そうっていうなら……あたしも、容赦しないよ!」
 続けてエンちゃんが銃剣を放つ、けれど。銃弾は壁を穿つだけで、笑みを深く刻んだままのその姿は変わらずそこに立っていた。シオちゃんが一瞬息をのみながらも、その意気を叩きつけるように飛び出す。
「これならどうです!」
 鋭い斬撃に一瞬姿がぶれるものの、変わらずそれはそこに立っていた。
「何、コイツ!」
「くっ!?」
「……やはり効いていないのですわね……」
「……! シオちゃん、下がれ!」
 咄嗟にモロスの旦那が声を飛ばす。リザ様の言葉に、銃剣からナックルへと素早く持ち替えていたオディオが、飲み終えたアンプルを投げ捨てながら間合いへと飛び込んだ。
「銃は駄目みてぇだな……ならよ!!」
 鋭い打ち込みは、それの頭部へ直撃する。けれど、それにダメージが通った、とは思えなかった。するり、とシオちゃんの前に足を進めたそれは、シオちゃんに顔を近付け、嗤う。
「……似て、いるかな?」
「似てるものか!」
 ぎり、と目を見開いてシオちゃんが叫ぶ。そのシオちゃんの前に飛び込むように体をねじ込んだエンちゃんは、スライプナーを抜き放って振りかざした。
「あたしの娘に!! 近付くんじゃねぇ偽物ぉ!!」
「守る、ためのそれ、も、『執着』、ではないのか?」
「執着ではありません!」
 エンちゃんの叩き付ける切っ先は、それの姿を一瞬ブレさせる。広げたままのフォトンに、それの姿が一瞬捉えられなくなる。
「……果たして、本当に?」
 囁くような、嘲るようなそれの声の後を、耳を打つようなノイズが追いかける。一瞬顔を背けるほどの大音量にも負けず、シオちゃんは左手をそれに叩き付けた。
「私と、お父さんとエンさんは……執着ではなく、家族だ!」
 目を一瞬だけ焼くような光が放たれる。……気弾、と気付いたその時、耳を小さくかすめたのは、
「……クスッ」
小さな呼気と共にこぼれたらしい、笑いだった。
「……霧散した……?」
 バイザーを展開したままのモロスの旦那がゆっくりと部屋を見渡す。エンちゃんは髪を振り乱しながら、今までそこに居たそれの立っていた場所を全力で踏みつけていた。
「っ……! このっ! クソ!! 野郎っ!! あたしの娘の顔で喋りやがって……いつかぶっ殺してやる……覚えとけよ!!」
 吼えるようなエンちゃんの怒りの声に、目の前からそれが消えた安堵感からか、シオちゃんがへたり込む。全員がゆっくりと戦闘態勢を解く中、私は1人、フォトンを広げていた。
「…………」
 この場の人間のフォトンと、私が広げているフォトン……違和感は、ない。集中を解くと流石に、少し眩暈がした。
「……しかし、これではルルさんを1人にしておくと危険では……」
 リザ様が展開していたシールドを片付けながら呟く。全員の目がこちらを向いて、私は肩を竦めた。
「ヤシロさんとくっついてたら、ダメ?」
「名案だな」
「おーおー、お熱いコト」
「それが良いかもしれませんね……」
 口々に言われて、さっきとは違う汗が背中に落ちる。……こういう認識で見られてたのね、私……。
「一応……部屋がこの様だから、居候はさせてもらってるのよぉ? 正直、戻ったのも初めてだし……」
「……しかし、なんでここなんだ?」
 モロスの旦那がこぼした言葉が、何故か胸の中で引っかかった。



 ……馬鹿げた研究だ、と思う。
 主体が間違っているのだ。
 ヒトとAIの融合を目指すのならば、主をヒトに置くべきではない。
 ヒトはとても脆弱で、儚いのだから。
 儚いから、失われてしまうから、その朽ち果てを拒否するためならば、AIが主とならねば。
 苦痛も悲哀も憤怒も得ぬAIが主となって、フォトンを操り、融合を目指す。
 それこそがこの研究に必要であったもの。
 ヒトの弱さなど、残す必要はない。
 永遠というに等しい間を稼働できるAIにとって、心などは不必要だ。
 ヒトに価値を見出すならば、――そう、あの氷の花のような美だ。
 脆くも儚く、麗しく咲き誇る氷の花。
 あれを正しくこの手にするために打つ次の手は、決まった。
 データは既に十分用意した。
 あとは、そう。
 ――誰に、為るか。

【to be continued...】

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2017.09.17(Sun) | 『名も知らず、咲き誇る花』 | cm(0) |

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