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白銀 桜

Author:白銀 桜
万華鏡、うつくしいかたちをみるもの。
映るものを、言葉に変えて。

日常、PSO2/PSUでのRP、創作など。

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【PSO2/RP】Talepiece 02【ver:Loiloidia】
 年に1度、とはいえ……これだけの量のチョコレートを相手にすることもないんじゃないかしら。
「おねーちゃん、チョコ固まりそー!」
「慌てなくていいわよぉ、湯せんかけてるからそう簡単に……って溢れるわよそれ」
「わー!?」
 ……施設の女の子たち相手にバレンタインお菓子教室を開いて、もう3年ほどが経つ。定番のチョコカップに、シリアルチョコに、ブラウニー。小さい子達でも作った達成感は凄いものらしい。顔のあちこちにチョコレートを跳ね返しながら奮闘する女の子たちを、戸口の辺りで立ち入り禁止を命じられた男の子たちが一生懸命覗き込んでいる。
「おねーちゃん、できたー!」
「ん、上手に出来たわね。ちゃんと固まるまではそっとしておかなきゃよぉ?」
「焼けたよー、おねーちゃーん!」
「はいはぁい、ほら、熱いから離れてねぇ?」
 オーブンを開けると、熱気と共にチョコレートの香りが広がっていく。女の子だけじゃなく、男の子たちからも歓声が上がるのが可愛らしくて笑ってしまった。
 ブラウニーを冷ましながらデコレーション用の材料を準備していると、少し年上の女の子たちが数人、にこにこと満面の笑みで近付いてくる。お菓子作り3年目の彼女たちは、そこそこの器用さで自分たちのチョコを仕上げていたらしい。
「ねー、おねーちゃん」
「なぁに?」
 振り返ると、女の子たちの笑顔が意味ありげに深くなる。一瞬イヤなものを感じて言葉を飲むと、女の子たちはずい、と1歩こちらに詰め寄った。
「おねーちゃんは、作らないの?」
「……え」
「作るんだよね?」
「……え、あの」
「も・ち・ろ・ん、作るよねーっ?」
 ……何このプレッシャー……。思わず目が泳ぐ。けれどその先には、私に一身に注がれる期待の眼差しだけがあった。
「……ちょ、ちょっと」
「お兄ちゃん喜ぶよねーっ」
「やっぱハート? ハートだよね!」
「きゃーっ」
 ほぼ連行に近い形で、今まで子ども達が作っていた台の前まで移動する。困り果てて周りを見ても、子ども達は何故かきらきらした目で私を見ていて、――逃げ、られないわね、これ……。
「助手やるねっ、おねーちゃん!」
「……え、えぇ……」
 仕方なく、チョコを手に取る。……あんまり甘過ぎないようにしたいけど……大丈夫かしら、これ。


「お兄ちゃん帰ってきたー!!」
「ほら! ほらおねーちゃん早く!!」
「や……いやだから、あたしは良いから……っ」
 玄関付近に潜んでいたらしい男の子が、伝令のつもりなのか部屋に飛び込んでくる。女の子たちは満面の笑みを通り越して、もう何か変な迫力すら発したまま、私を部屋の真ん中へ連れていく。そして、手の中にこれでもかとラッピングされた可愛らしい包みを押し込まれた。
「お、おい、何だ何だ、そんなに引っ張るな、って……おぅ、ルル、ただいま」
「お、おかえりなさい、社……」
「何だ、みんな集まって、……おい?」
 男の子たちが寄ってたかって、帰ってきたばかりの長身を私の前に押し出していく。どの子もきらきらした笑顔のまま、私たちを取り囲んでいて、……何この逃げ場のなさ……!
「お兄ちゃん、今日何の日だー?」
「ん?……あぁ、バレンタインか。だからこんなに甘い匂いなのか、今回もルルが教えてくれたのか?」
「今日はそれだけじゃないからねー!」
「おぅ?」
 背中を嫌というほどつつかれて、思わず後ろ手に隠していた包みを落としかける。背中の方で一斉に息をのむ気配がして、慌てたらしい手が数本引っ込んだ。私の肩越しに起きていることに何かを察したのか、苦笑交じりだった笑顔に別の色が混ざるのが判る。悪戯っぽい笑みが、こちらの目を覗き込んだ。
「どーした、ルル?」
「っ……判って言ってるでしょ……!」
「いーや、何のことだかなぁ」
 ……完全に目、笑ってるんだけど! 再びつつかれ出した背中に隠していた包みを、その胸元に押し付ける。
「ん?」
「……っ、あげるわ」
「俺に?」
 声に隠しようもない笑いが滲んでいますけど!! 上目遣いで軽く睨むと、口元を押さえたまま、真っ直ぐに見つめ返してくる。そして赤い瞳が、優しく笑んだ。
「ありがとな、ルル」
 ――子ども達の歓声が上がって、そのままチョコパーティーに雪崩れこんで。やっと落ち着いたのは、子ども達を何とかベッドに放り込んでからだった。


「やー、良いバレンタインだったな」
「…………」
 帰り道、並んで歩きながら思わず俯いてしまう。思い出すだけで、顔が熱くなるのが判る。それに気付かれたのか、指が頬をつついてきた。
「……何よぉ」
「あれ、あの子たちが率先してやったんだろ?」
 声に軽い苦笑が滲んでいる。――そう、渡すためにあの場で作ったチョコは、女の子たちの必死のプレゼンに私が押し負けた形で、おおよそ私が作らないであろうピンク色にデコレーションされたものになっていた。見た目も甘いけれど、これはもう味も甘いのは確実で。……小さく溜息をついて、横目で見上げながら答える。
「あんなに必死にアピールされたら、使わないわけにいかないじゃない……」
 そしてそのデコレーション過多なチョコは、あの後すぐに開封されて日の目を浴びてしまっている。もう顔も上げられない私を幸せそうに眺める子ども達を責めるつもりはないけれど、……こんな恥ずかしい思いをするのも久々すぎる。
「…………」
「笑ってるでしょ!」
「や、そうじゃなくて……怒るなって、ほら」
 いつ取り出したのか、大きな手がチョコを1つ、私の口に滑り込ませた。ほろりと溶けるチョコは、やっぱり甘い。思わず口を閉じると、立ち止まった手が髪を撫でた。
「嬉しかったぞ?」
「……そ、じゃあこっちは良いかしら」
 荷物に隠していた小箱を手に、上目遣いで睨む。撫でる手が一瞬止まり、沈黙が降ってくる。
「……要る」
「……あ・と・で・ねっ」
 するり、と手の下から抜け出して走り出す。慌てた気配が追ってくるのを感じながら、口の中の甘さに唇が緩むのを抑えきれなくて。冷たい空気に、白く笑みが落ちた。


end.

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2017.02.14(Tue) | 『名も知らず、咲き誇る花』 | cm(0) |

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